保育者を悩ます園児の「困り感」…発達支援利用者は10年で3倍、現場の不安も増すばかり 専門教員を配置した学園に起きた変化とは
鹿児島市で認定こども園などを運営する鹿児島竜谷学園は本年度から、特別な支援が必要な園児と、その保護者への対応に助言指導を行う専門教員を配置した。対象となる子どもが増加傾向にあり、業務に不安を感じる保育者の負担軽減が期待されている。 少子化なのに教室が足りない…特別支援学校は話が別、児童生徒が10年で3割増える 全国で慢性的な教室不足に
「外で思い切り体を動かす遊びを取り入れるといい」「とことん話を聞くようにすることが大事」 学園本部がある鹿児島市の本願寺鹿児島別院で8月開かれた研修で、系列園の保育者ら39人が意見を交わしていた。集団になじみにくいなどの「困り感」がみられる園児の事例を共有し、支援策を考えた。 研修は3日間あり、特別支援教育への理解を深めてもらおうと学園が初めて開いた。「具体的な解決策を示すと、他の事例にも応用できる」。保育者たちの意見を聞いていた、特別支援教育専門教員の岩本伸一さん(66)が助言した。 岩本さんは、県内の特別支援学校長や鹿児島大大学院教授を歴任。経験を買われ、4月から専門教員に就いている。系列園を月2回ずつ巡回し、気になる園児への対応や、児童発達支援事業所(療育)などにつなげる必要性の有無を助言。保育者だけでなく、保護者の相談にも応じている。 学園は鹿児島市内に認定こども園など九つの系列園を運営しており、5月28日時点で計959人が在籍する。このうち児童発達支援事業所に通っている園児は約15%。通っていないが「困り感」が疑われる子は約13.8%に上る。
園児に接する中で、支援が必要ではないかと感じる保育者は少なくないという。だが、発達段階との違いを見極めるのは容易でない。野村修事務局次長(68)は「特別支援に関する人材確保や相談態勢が十分でなく、接し方に悩んでいる先生もいる」と、専門教員を置いた理由を語る。 系列園の一つ、アソカ幼稚園の金竹久美子園長(56)は「これまでは、どこに相談すればいいか迷うことがあった。すぐに助言を求められるのはありがたい」。鴨池幼稚園の永吉由紀子副主幹(49)は「他園の取り組みを紹介してもらえるので参考になる」と歓迎する。 支援が必要な子どもは、鹿児島市全体でも増加傾向だ。市障害福祉課によると、2013年度末は児童発達支援事業所41カ所、延べ利用児童数1万2552人だったのに対し、23年度末には226カ所、3万8829人と大幅に増えた。 同課の藤崎圭規課長は「療育や発達障害への社会的認知が広がっていることも挙げられるのでは」と分析する。市は、園への巡回相談などを行っているという。
障害児教育システムに詳しい鹿児島大教育学部の肥後祥治教授(62)は、鹿児島竜谷学園の取り組みについて「専門領域にたけた人がいることは安心材料になるだろう」と評価する。ただ、個人頼みではなく、保育者も一緒により良いアプローチを考えるなど、「組織全体で育っていくような活用が大切だ」と指摘した。
南日本新聞 | 鹿児島