人気マンガ家たちが解体危機から守った洋館。「旧尾崎テオドラ邸」がギャラリーなども併設し3月オープン
アンティークな喫茶室やフォトスタジオ
買い取った洋館は老朽化が進み、耐震補強を含め約1億円の改修工事費が必要だった。資金集めのため2度のクラウドファンディングを行い、計3000万円超を調達。残額は、『うる星やつら』で知られる高橋留美子さん、『ドラゴン桜』の三田紀房さん、『賭博黙示録カイジ』の福本伸行さん、『土竜の唄』の高橋のぼるさんが無利子融資した。 改修を手がけたのは、数寄屋や寺社建築をおもに手掛ける建築家の田野倉徹也さん。山下さんのエッセイマンガ『世田谷イチ古い洋館の家主になる』に別名で登場する田野倉さんは、活動初期から建物調査などで全面協力してきた。「素材は極力もとと同じものを使い、完成当時の姿に近づける改修を心がけた」と話す。今後、館の運営が軌道に乗った段階で登録文化財の申請を行うという。 様々な人の思いが詰まった旧尾崎テオドラ邸は、山下さんと笹生さんが代表理事を務める一般社団法人・旧尾崎邸保存プロジェクトが運営。1階は専属パティシエによるケーキや紅茶を提供する喫茶室、来館者が撮影を楽しめるフォトスタジオ、コーヒーカップなどオリジナルグッズを販売するショップ、2階はマンガを中心とする原画展示を行うギャラリーが入る。ギャラリーでは杮落としとして、3月1日からマンガ家やイラストレーターら38人が描き下ろした色紙や原画約70点をオークション販売するチャリティ作品展を開催し、売上全額は館の改修保全費に充てる(作品展は12日まで)。入館は事前予約制で、チケットは公式HPで購入できる。
海外を意識した原画販売サイトも開設
旧尾崎テオドラ邸宅は関連事業として、3月1日にマンガの原画などを販売するECサイトも開設。大御所作家が相続税対象となる原画の廃棄処分を余儀なくされている現状を受け始めるもので、海外へ向けたマンガ文化の発信も目的だ。社団法人の理事を務める三田さんは「日本のマンガ家は最高峰の技術を持っている。もっと海外に実物を届けられるように環境を整備したい」と語った。 発表会には旧尾崎テオドラ邸を応援するマンガ界のレジェンドたちも駆け付けた。ちばてつやさんは「マンガ家は大ヒットを出しているときはいいが、普段はカツカツで生きている。そんなマンガ家たちがお金を出し合い、日本のマンガを発信するプロジェクトを立ち上げた。大賛成で喜んでいるが、よく考えると本来は国がやるべきことではないかと思う」。永井豪さんは「歴史が浅いマンガを描いていると下に見られた時代もあったが、ようやく文化と呼ばれるものになってきたと思う。ますますアピールしてほしい」とエールを送った。 東京の歴史的建造物が消えていくなか、民間の力による建築保存・再生を成し遂げた旧尾崎テオドラ邸。山下さんは「同じビジョンを共有できる仲間を見つけるまでが大変だった」と語る。建築を次世代につなぎ、マンガ文化にも寄与する稀有な試みに注目したい。
永田晶子