電気料金値上げの理由「再生可能エネルギー」賦課金は有効に使えているのか
国家というより、身近な地域でエネルギーを自給する意味
オーストリアでは、木質バイオマスの「燃料」として、「エネルギー」としての特性を生かし、さらに木質バイオマスのエネルギー利用は、地域の自立にも一役買っている。 オーストリア企業の半分以上は家族経営の会社(一人の会社を除く)で、また農林業従業者のうち、5人に4人は家族で働いている。オーストリアにおいて小規模事業者が担う役割は大きい。このような人々が近くの森から伐ってきた木を使い、そして地元の林業や製材業から出る残りものを利用して、さらにプラントも自前で賄い、エネルギーを生産し、自給する。こういった取り組みも脚光を浴びており、雇用や経済効果を試算されている。地域社会は、みずから自立する方向に舵を切る。 木質バイオマスは嵩張(かさば)るのが弱点だ。運搬すればするほど、コストがかかり、二酸化炭素も排出するという性質がある。しかし、国内、それも近場から調達することで、これらを抑えることができ、結果的に価格低下にも繋がる。 また、まとめて熱(温水)を作って、周囲の施設や家々に回すこともされている。これを地域熱供給という。オーストリアでの地域熱供給の半分以上はバイオマスによる供給だ。
日本が問われていること
一方で、日本はどうか。 筆者はオーストリアで、「日本のように用材丸太をエネルギー利用することはない」と言われたことがある。わざわざ「日本のように」と言葉を付け加えたのは、以下のような事情を向こうが知っているからだろう。 日本でも製材廃材は使われているが、先ほども触れたように、わが国にはバイオマス発電のために、本来ならば用材にできる国産材を製材所と奪い合ったり、燃料にするバイオマスを海外から大量に買ってきたりするプラントがある。 残り物を使うことで、木を資源としてフルに活かそうとしているオーストリアとは随分と状況が異なる。 また、日本では輸入が多いということは、海外の動向に振り回されるということになる。それがその土地に還る資源ならば、環境問題に直結するし、処理すべき廃棄物ならば、海外からゴミを買っていることになる。 オーストリア人と話していると「それは意味があるか」とよく問われる。 今、自分の利益になるか、ではなく、産業のため、地域のため、環境のため、将来のため、それをする意味があるか、どうかを問うているのである。 再生エネでなくても、先を焦ると「それは意味があるか」と問いたくなることが、多くなるような気がする。 木質バイオマスのエネルギー利用は、他の再エネとは異なる特性を活かし、そして林業や製材業の勢いを取り戻して、ようやく本意を遂げるのではないだろうか。 国民から徴収する賦課金がこうした大きな視点で有効利用されることが強く望まれる。
白井裕子(しらい・ゆうこ) 慶應義塾大学准教授。早稲田大学理工学部建築学科卒。稲門建築会賞受賞。ドイツ・バウハウス大学に留学。早稲田大学大学院修士課程修了。株式会社野村総合研究所研究員、早稲田大学理工学術院客員教授などを務める。工学博士。一級建築士。著書に『森林で日本は蘇る』『森林の崩壊』。 デイリー新潮編集部
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