【解説】「救急搬送で92回電話も病院見つからず死亡」 韓国で医療崩壊寸前の実態…“医師増やす”改革で“医師不足”に
好きなドラマは「コード・ブルー」現役医師が求めるのは“数”ではなく“質”
議政府聖母病院のチョ・ハンジュ医師の部屋を訪れると、デスクの前には、簡易ベッドがあった。少しでも睡眠が取れるように置いているのだという。 「日本のドラマ、コード・ブルーが好きだ」。取材の冒頭でそう話したチョ医師。政府が推し進める医療改革については「医学部の定員をある程度、増員することは必要」としながら、現在の定員の60%にあたる2000人増やすことには、「医師の数が足りないのと、救急など必要な科の医師が不足しているのは別の問題」と疑問を呈す。その上で、「単純に医師の数を増やすのではなく、優秀な医師を輩出できるシステムづくりに取り組まなければいけない」と話した。 2024年で50歳になるというチョ医師。医学書がたくさん並べられた本棚には、妻と2人の娘の写真が飾られていた。長引く医療混乱の中、家族と過ごせる時間は少なくなってしまったという。韓国の外傷学会の理事長も務め、この10年、1人でも多くの命を救うため、ドクターヘリなどを活用した救急搬送システムの構築に尽力してきた。 しかし、「10年間やってきたことがそのまま崩れた」とチョ医師は残念そうに語る。救えない患者が増えていることについて、「とてもたくさんのプレッシャーを感じる」と話すが、それでも医師としての使命を果たすために、身を削りながら今も現場の最前線で命と向き合っている。
医療空白解決へ…尹大統領「スピード感持って推進する」
長引く医療空白をどうするのか。 韓国政府は、2026年度以降の医学部の定員については、医学界の意見も取り入れながら再検討していくとしている。11月7日に会見を開いた尹大統領は、記者から医療空白への対応について問われると、「医師が不足している分野の医療報酬を見なすなど、スピード感を持って推進する」と強調した。 5年の任期を折り返した尹大統領。最新の世論調査(11月18日発表)では支持率が23.7%にとどまる。医療先進国が直面した“医師不足”の影響がより深刻化する恐れもある中、尹大統領のかじ取りが注目される。 (FNNソウル支局 濱田洋平)
濱田洋平