【解説】「救急搬送で92回電話も病院見つからず死亡」 韓国で医療崩壊寸前の実態…“医師増やす”改革で“医師不足”に
“消えた研修医”1万人近くが集団辞職
2024年2月、韓国政府は医師不足解消を理由に、2025年度から医学部の定員を、これまでの3058人から5058人に増やすと発表した。経済協力開発機構(OECD)によると、韓国における医師の数は2022年で人口1千人あたり2.6人(日本は2.7人)、OECD加盟国の平均3.7人を大きく下回り、加盟国の中でメキシコと並んで最下位となっている。 さらに、医師が都市部に集中したり、救急科や小児科の志望者が少なかったりという偏在が問題となっていた。尹大統領は「国民の生命と安全を守ることは国家安全保障、治安と並ぶ国の存立の理由であり、政府に与えられた最も基本的な責務」と医学部の定員を増やす医療改革の必要性を訴えた。 しかし、肝心の医療現場は、競争激化による収入減や医療の質が下がるとして、政府の医療改革に猛反発、各地でデモが相次いだほか、日本の研修医にあたる専攻医が全国で約1万人が集団辞職した。 韓国では、研修医にあたる専攻医が医療を支えている実態がある。韓国メディアによると、ソウル大学病院など“ビッグ5”と呼ばれる大規模病院では、全体の医師のうち、専攻医は約39%を占めるという。日本やアメリカの大規模病院は10%前後となっていて、韓国の医療界における専攻医の存在の大きさは明らかだ。
学生の集団ボイコットに“医師の海外流出”も
政府の医療改革に反発しているのは現場の医師だけではない。韓国の最高学府・ソウル大学など全国の大学で医学部に通う学生約1万9000人のうち、なんと97%が今も授業をボイコットしている。韓国では例年、3000人程度が医師国家試験を受けるが、2025年1月の試験の受験者は、300人余りにとどまっている。医療空白を避けるために、韓国政府は医学部の教育課程を現在の6年から5年に短縮することも検討している。 さらに、医師が海外流出する懸念も高まっている。韓国のインターネット上のある掲示板にはハングルで「日本に挑戦する医師たちの会」と書かれ、日本で医師になるための手続きなどが紹介されている。この掲示板を通じて、日本のある医療法人が10月に韓国人の医師向けに採用説明会を開催したところ、50人の定員がすぐに埋まるなど想像以上の反響があったという。 さらに、韓国メディアによると、アメリカやカナダへの進出を考える医師が増えているほか、ベトナムの病院が韓国人医師向けに、月給3000万ウォン(日本円で約330万円)の求人広告を出したという。医療水準の高い韓国の医師たちの需要は高く、医師の海外流出が今後加速する懸念が高まっている。