【渓流】一里(約4km)歩いて一尾しか釣れないと言われる夏ヤマメにチャレンジ!
“抽象した工夫”を他の川で試す
五家荘の釣りから抽象した工夫でなんとかやれると、やっとこの年になって気付かされた。それを他の釣り場でヨタヨタ演繹してヨチヨチ帰納すれば、ひょっとしたらサトミ君やスギサカ君をもアッと驚かすことが出来るのではないかとイソイソ近場の豊前に出かけた。 〝抽象した工夫〟なんて大げさだけれど、ただ瀬がたぎりだす前に攻め立てるだけのことで「なーんだ」なんて言う人はいるかもしれないが、でもジイちゃんフライマンがやっとたどり着いて手に入れた未来なのである。早起きはジイちゃんだけで、恥ずかしながら若くピチピチの魚が朝早くからフライを追うなんて思ってもいなかったのだ。 さて、日の出の時間に着く。キラキラと輝いて引き締まった朝がそろそろ熱でほどけ始める、今のうちがフライの勘所だ。五木で使ったミッジをと思ったけれど、やっぱりピーコック胴の「エルクヘアカディス16番」を摘まんでしまう。もうこの時期にはおまじないのように使って、でもご利益があるからなあ。様々なフライは巻いているのだけれどワンパターンで能が無い。でもヤマメ君は性懲りもなくこれを喰ってくる、で釣り人は成長しないまま日が暮れる。
この夏、散々だった豊前の瀬に魚はいた
真夏、流れが岩で深く混ぜ返され、瀬音が大きく騒いでいればそこが釣り場だ。ストーキングしながらそっと瀬に近づく。 ややっ、やっぱり来た。小さいけれど夏ヤマメだ。次の瀬ではアマゴ、そしてまたヤマメと続いてフライを追って来た。この夏何度も来ていて散々な目にあっていたのに。だがそれもしばしで、アブラッパヤ、豆ヤマメ君の掛けバラシが続くかと思ったら陽が高く立ち始めた。明るく照らされた瀬からは魚はもうフライを追うことはなくなった。 岩に腰を下ろして竿を仕舞いながら、「ああ今日もいい釣りをした」と思う。渓から上がって息を吐くとすっかり脱力してペッタリ岸辺に座り込んでしまうような、身魂を出しきったというそんな感じのものである。達成されたスッカラカン。これって即身成仏ギリギリっていうことか?もう魚の量ではなくなったことは確かである。 酷暑にさらされても川はひっそり魚を宿して生きていたのだという喜びと、工夫が活きて夏ヤマメをヨタヨタフライでもなんとか掛けることが出来た喜びが重なって、佳き釣りの日々を送ることが出来たのだった。