石田夏穂さん「ミスター・チームリーダー」インタビュー 自分らしくってそんなにえらいこと? 会社員って純文学!?
石田夏穂さんの最新刊『ミスター・チームリーダー』(新潮社)は、係長に抜擢された入社9年目の後藤がボディビル大会に向けて減量に励む物語。ある日、体型も仕事もだらしない同僚たちを排除するたび、自身の体重が減っていくことに気づいて――。会社員のボディビルダーを描くのは二度目。このモチーフに惹かれる理由から、会社員の純文学性が見えてきました。 【写真】石田夏穂さんインタビューカットはこちら
ボディビルダーは「自分」に興味なし!?
――今作はデビュー作「我が友、スミス」に続き、ボディビル大会を目指す会社員が登場します。なぜ、この題材に惹かれるのですか。 身体を一生懸命鍛える人って、「自分らしさを求めて」と思われがち。私自身もそう思っていたんですが、実際にボディビルの大会に熱心な方って、そんなことは意外と考えてなくって、ただ勝つために自分を大会で評価される型に合わせにいくんです。たとえそれが自分の理想型とは違っていても、それが評価されるからやる、という。そのストイックに泥臭く人に評価されようとするところにすごく惹かれます。 ――後藤は、ボディビル大会を「未知の他人との戦い」と表現するのですが、これはなぜですか。 ボディビルの出場者って、大会当日、服を脱いで舞台にあがってはじめてこういうライバルなんだなってわかる。実際に彼らが戦っているのは、当日というよりそれまでの一人で身体を作っている期間なんですよね。未知のライバルを想像しながら。それが面白いと思います。実際にボディビルダーの友達がいるわけじゃないので、全部私の想像でしかないんですが……。 ――「我が友、スミス」ではボディビル大会を目指すのは女性会社員でしたが、今回は男性会社員の後藤です。書いてみて、なにか違いはありましたか。 今回、主人公を男性にしたのは、たんにボディビルの大会で体重別に審査されるのが、男性向けのカテゴリーしかなかったからです。この小説は、体重の微々たる増減に一喜一憂するマッチョな男性を書いたら面白いかな、という発想から始まったので。あと女性を主人公にすると、編集の方に「女性の働きづらさ、生きづらさを書いて」って言われちゃうところを、男性にしたことで、純粋にストイックな人が書けたように思います。