<掛布雅之が語る>前田智徳はイチロー以上の90年代以降最高のバッターだった
前田の打撃センスの「凄さ」
彼のバッティングの凄さは、ボールを捉える瞬間のレベルスイングの時間の長さだろう。バッティングとは、バットを構えた位置から、まずヘッドを下ろす動作から始まるもの。ゆえにバットをレベルに振る時間を長く保つことが難しい。その時間を長く持てるならば、ボールを捉える時間が長くなり、芯でボールをミートする可能性が高まる。いわゆる点ではなく線でボールを捉えるバッティングである。 私も、現役時代、バットの軌道は、ダウン→レベル→アッパーであることを意識していたが、なかなかレベルの時間を長く保つことができなかった。しかし、前田選手は、それができた。センスと徹底したスイングによって作り上げたスタイルだろう。 だから狙ったボールに対する打ち損じがほとんどない。 彼は、インコースの得意なバッターだった。バットを体に巻きつけるようにして打つ。常に体の近くにバットのヘッドがあるから、バットコントロールができてレフトにもライトにも自在に打てる。この体にバットを巻きつけるようなバッティングスタイルは、私に似ているといえば似ているのかもしれない。通常、バッターは自分のポイントというものを1つか2つ持っているものだが、彼の場合、それが3つ4つあった。
イチローより難しい技術に挑戦
私は、前田選手は、ある意味、イチローよりも難しい領域のバッティングに挑戦した打者だと評価している。イチローは詰まってもヒットゾーンに打球を落とすことを考えているバットの先からグリップエンドの手前までヒッティングゾーンのあるような特異な打者だ。足も使える。 内野安打も多い。しかし、前田選手は怪我をして足が使えなくなってから、いかにしてバットの芯でボールを捉えるかという技術を追求せざるを得ない状況に立たされた。そして求道者のように、その難しい世界を極めようと努力をした。
内野安打も多い。しかし、前田選手は怪我をして足が使えなくなってから、いかにしてバットの芯でボールを捉えるかという技術を追求せざるを得ない状況に立たされた。そして求道者のように、その難しい世界を極めようと努力をした。 近寄り難いような独特のオーラを持った孤高のバットマン。本物のプロフェッショナルが、また一人球界からいなくなると思うとたまらなく寂しい。 (文責・掛布雅之/構成・本郷陽一) ■前田智徳(まえだ・とものり) 1971年6月14日生まれ。外野手。熊本県出身。熊本工業時代には春1回、夏2回、甲子園に出場。1989年のドラフト4位で広島に入団。幾度となく故障に見舞われるが復活を果たし、プロ24年間、通算成績は2186試合の出場で2119安打、295本塁打、1112打点、打率3割2厘の成績を残した