被爆者の長年の奮闘、世界が評価 傷痕さらし核の悲惨さ訴え続け来年被爆80年 日本被団協にノーベル平和賞
被爆者の全国組織、日本被団協が2024年のノーベル平和賞に選ばれた。行政の支援も、頼る組織もほぼなかった時代に結成。自らの体を焼かれ、肉親を奪われながらも、核兵器の非人道性を告発してきた活動が、ついに世界に評価された。平たんではない道を歩んできたからこそ、今がある。その功績を広島からたどり、未来も見つめる。 【画像】8月6日、きのこ雲の下の市民 11日午後6時過ぎ、広島市役所。「うそみたいだ」。ノーベル平和賞の受賞発表の瞬間を見守った日本被団協代表委員で広島県被団協の箕牧(みまき)智之理事長(82)は、何度も頰をつねった。涙があふれる。坪井直・前理事長たち、核兵器廃絶の悲願を見届けられずに亡くなった被爆者の名にも触れた。「坪井さんたちが元気な時にもらいたかった。喜んでくれていると思う」と思いをはせた。 「被爆者の長年の奮闘に対する答えだと思います」。日本被団協の木戸季市事務局長(84)も自宅のある岐阜市内で取材に応じ、声を上ずらせた。「先輩たちの顔が浮かびます」 被団協の歩みは、原爆投下から11年後の1956年に始まった。「私たちの体験をとおして人類の危機を救おう」。結成大会宣言に盛り込んだ言葉通り、自らの傷痕もさらしながら核の悲惨さを訴え続けてきた。東西冷戦の緊張が続く中、1970年代から海外での証言活動も本格化。受賞発表では、フリードネス・ノーベル賞委員長に「核兵器が80年近く使われていないのは、彼らの貢献のおかげ」と言わしめた。 近年は国内外の平和団体と共に核兵器を禁止、廃絶する条約の締結を全ての国に迫る署名活動を展開。核兵器禁止条約の採択を後押しした。それでも、世界では今、核の脅威が高まる。フリードネス委員長もこの日、「核兵器が使われる恐れは中東やウクライナでもあり、全人類の脅威だ」との危機感を示した。 「『核を使ってはいけない、紛争解決には話し合いしかない』という被爆者の訴えが力になると評価されたのだろう」。受賞決定をそう受け止めたのは、もう一つの広島県被団協の佐久間邦彦理事長(79)だ。「核兵器禁止条約の日本の批准へ、受賞で弾みをつけたい。そのためにも被爆者がもっと元気を出さないと」 来年は被爆80年。被爆者の平均年齢は85・58歳になった。が、被団協はこの日も足を止めていなかった。日中、代表メンバーの姿は国会内にあった。与野党の党首を相手に核廃絶を求める要請活動に取り組んだ。 田中熙巳(てるみ)代表委員(92)は活動を終え、自宅のある埼玉県新座市で朗報を知った。「受賞をきっかけに世界中に核兵器の恐ろしさが伝わってほしい」。喜びを口にしつつ、今後も見据えた。「唯一の戦争被爆国が核兵器禁止条約に署名も批准もしていないのは、非常に悲しいこと。日本政府が核廃絶の先頭に立つきっかけになってくれればいい」
中国新聞社