成功率「まさかの」9割越え、テルモ開発者が製品開発で「無双」できた納得理由とは
一貫して持つ「ある意識」とは
──沓澤さんはこれまで30のプロジェクトを進め、29のプロジェクトで製品を世の中に出してきたそうですが、「世の中に出たらどうなるか」追求することが成功の秘訣になるのでしょうか。 沓澤氏:はい。世の中に出たらどうなるか自問自答し、関係者に問い続け、徹底的に考えることは、ヒット率向上に欠かせないと思います。 たとえば、コロナ禍、医療現場を支えたECMOで、故障率や保守頻度を従来品から大きく低下させることを目指した開発プロジェクトがありました。プロジェクトは当初、新しい部品や技術を使った設計を進めていました。しかし、「世の中に出たらどうなるか」考えると、ECMOの使用頻度は低いこと、出荷台数が少ないことに気が付きます。 年に1回しか使わず、しかし10年は使い続け、年間では100台程度しか出荷されない。従って部品メーカーへの交渉力は低い。そのような中でポンプを止めないことが必要だと想像できます。すると、安定運用が確認できている枯れた部品で代替品が得られるものを中心に設計することが必要になると分かるのです。 ──製品開発の成功確率を高めるために、ほかに重要なことはありますか。 沓澤氏:先ほどお話したことと重なりますが、開発者としては「自分のプロジェクトが生み出すものが、なくてはならないものだという確信を持つこと」を大事にしています。言い換えれば、「これを世の中に届けたい」という思いです。 たとえば、輸液ポンプの開発において、流量安定精度を向上しようとしていたときは、シリンジポンプは輸液ポンプよりも高精度で薬液の注入ができますが、50mlより大きいシリンジがセットできないことから、頻繁にシリンジ交換することが必要でした。 交換の都度、患者さんの状態が変化し、医師として適切な診断ができないことや、これに起因する患者さんのQOL低下、医師のシリンジ交換の手間といった問題が解決できるところまで想像することで、『大量の薬液をより高精度で注入できる輸液ポンプがなくてはならない』という確信が持てます。この確信が、何があっても実現するモチベーションにつながりました。 また、常に「任されればその領域のエキスパートになる」という意識も持っています。そのためには、関連する技術を勉強しつつ、自分のスコープを狭く定めず可能な限り自分でも手を動かし、世に出たらどうなるかを想像するための知識、技術の「引き出し」を日々拡充することが重要になります。