「みどりの窓口廃止」が招いた大混乱、デジタル戦略の裏に潜むJR東日本の“ある誤算”
なぜ?JR東日本の戦略が想定通りにいかないワケ
JR東日本としては、多くの鉄道利用者に「えきねっと」を利用し、新幹線などに乗ってもらおうと考えていた。定期券も、徐々にではあるが「モバイルSuica」で使用できる範囲を広げ、通勤定期券から通学定期券へ、利用対象者も大学生以上から中高生以上へと拡大していった。 また、「えきねっと」を使わない人のためにも、「指定席券売機」だけではなく「話せる指定席券売機」を設置し、窓口がなくてもオペレーターを通じて特急券や定期券を簡単に買えるようにしている。 形式的には、窓口を減らしてもいいところまで持ってきた。ここまで整えたなら、「みどりの窓口」を減らしてもいいはずだとJR東日本は考えたのだろう。 しかし、複雑な乗車券の発券やきっぷの払い戻しなど、「みどりの窓口」以外ではできないことも多かった。きっぷの払い戻しは、最近できるようになったものの、「指定席券売機」などで対応できないことが多いうちに、「みどりの窓口」を減らしていったのだ。 また、「えきねっと」だけではなく、「指定席券売機」も使いにくいという声をよく耳にする。「えきねっと」も「指定席券売機」も、「みどりの窓口」で駅員が使用するマルス端末とそれほど操作性が変わらないものだからだ。 マルス端末を使用する駅員はきっぷのルールを熟知しており、日々使用する中で操作に慣れているが、一般の鉄道利用者にそれを求めるのは難しいだろう。 このように、デジタルを活用して固定費を減らそうとするJR東日本の戦略は、うまくいっているとは言い難い。また、鉄道そのものについても、乗客減ゆえに本数を減らすというのは、コロナ禍終了後の現状において失敗している。現に、通勤電車の混雑はひどい状態だ。 こうして企業が戦略を立てる中で想定していたことが、うまくいかないようになり、利用者の間では不満が高まっている。
「Beyond the Border」でJR東日本はどう変わる?
2024年6月4日、JR東日本は中長期ビジネス成長戦略「Beyond the Border」を発表した。Suicaを進化させ「生活のデバイス」にすることでデジタル化を進めるというものだ。 流れとしては、「変革2027」の延長線上にあると言っていい。2028年度には新しい「Suicaアプリ(仮称)」を導入、一種のプラットフォームにしていく。 だが現状は「みどりの窓口」の行列が示すように、デジタル戦略に利用者がついていけていない面があるともいえる。 利用者の要望をしっかりと受け入れ、使いやすいシステムにし、何もかもデジタルでできるようになってから対人サービスを減らしていく、というのが企業戦略を上手に進めていく上でも必要だろう。
執筆:鉄道ライター 小林 拓矢