「無謀だ」と言われても諦めない! ”光免疫療法”という世界初のがん治療法
世界で認められる研究成果
これまでの研究成果が挙げられた理由としてNIHの自由度の高さを挙げる。しかし、そこには同時に常に厳しい業績審査があり、これをクリアしないとNIHの席がなくなる。日本の大学教授のように、いったん教授となると基本的には安泰という安易なポストではない。それだけに、常に緊張した競争状態の中で研究成果を挙げ続けなければならない。 「米国に職を求めてくる日本人は、私のように学位を取ってからではなく、大学卒業後すぐに渡米し、たたき上げる学生が増えてきているような気がします。 コロナ禍の頃はNIHの日本人終身主任研究員は10人未満でしたが、最近は若い人が、一定の任期期間で採用され、その期間の業績を審査して合格すれば終身雇用(テニュア)を与えられるテニュアトラックという形で、NIHに来る人が増えてきているのは喜ばしいことです」
研究者にとって最高のチャレンジの舞台であるNIHで成果を残せば、世界で認められる。
日本にも良さがあり国籍を米国に変えない
しかし「日本にも良さがあり、国籍を米国に変える気持ちはなく、むしろ、日本人であるという感覚が強い」と、小林氏は断言する。 「島津製作所、オリンパスなどの研究者の付き合い方は、『契約』ではなく『信義』に基づくものが多く、アメリカとは全く異なり、トップダウンによる会社ぐるみの全面的なサポートは研究に大いに役立ちました。光免疫療法をベンチャー企業(楽天メディカル)にライセンスし、資金を得ることができて、研究を臨床へと進められた」と日本企業の人材や資金面での援助、共同研究が大きな助けになった点は感謝しているという。 22年には大阪府枚方市にある関西医科大学に光免疫療法の研究所が設立され、所長(併任・無給)に就任した。これまではNIHにしかこの治療法の研究ラボがなかったが、関西医科大学に新たな研究拠点ができることで、NIHのラボで共に研究した若い研究者が、日本に戻ってこの拠点を使って研究を進め、臨床との融合ができるメリットがある。 現在、日米だけでなく、アジアや欧州の医療機関でもこの治療法のさまざまな治験が行われている。米国では、手術の前の術前療法として光免疫療法を取り入れようとする動きもあり、世界に向けての手応えを感じているという。 今後は、ほかの部位のがんに適用できる抗体を見つけて、光免疫療法の適用範囲を拡大したい思いが強い。食道がん、胃がんの治験も進んでいる。「次は患者数の多い前立腺がんにも取り組みたいです」と話し、いくつかの領域において日本で創薬を行い、NIHで治験を進めようとしている。新しい治療方法を普及させるためには、数年間という時間と多くの資金が必要になる。 日本とNIHの良い点を生かして研究を加速し、将来的には光免疫療法をすべてのがん治療にまで対象範囲を拡大して、がんで亡くなる人の命を救ってもらいたい。
中西 享