窮地で「流れ」奪還 小田、苦境乗り切り金メダル―車いすテニス
テニスの試合の流れは、ちょっとしたきっかけでがらりと変わる。 9月のパリ・パラリンピック車いすテニス男子シングルス決勝で、18歳の小田凱人(東海理化)は痛切に感じただろう。 【写真】ポイントを奪いガッツポーズする小田凱人 開始早々、世界ランキング1位(当時)のアルフィー・ヒューエット(英国)が下半身の治療のためタイムアウト。小田は第1セットを悠々と6―2で先取し、完全に主導権を握っていた。2―1で迎えた第2セットの第4ゲームで得たブレークポイント。勝利に近づく絶好機で、突然リターンの打ち方を変えた。 前進しながら強打で返すのが本来のスタイルだが、この試合で初めて後退して返球し、バックハンドをたたき込まれた。「後ろに下がりながら打ってからリズムが崩れた。大体、第2セットの途中で一回気を抜いちゃう」。2度目のブレークチャンスも、4度目も下がってリターン。約17分にも及んだこのゲームを取り切れず、相手が勢いづいた。 最終第3セットに持ち込まれ、3―5の第9ゲームでマッチポイントを握られた。窮地に追い込まれ、「分からないけど、もしかしたら緊張していたのかもしれない」。相手が勝負を決めにきたドロップショットは、わずかにラインを外れた。小田はその瞬間を楽しむように笑い、手を耳に当てながらラケットを振って観客を盛り上げた。 「ここはチャンス。お客さんをあおって、ここからまだ行くぞという気持ちを出した。そこからはリラックスして自分の土俵で戦えた」。苦境を乗り切り、4ゲームを連取して金メダル。大観衆を魅了した2時間38分の激闘だった。