小池栄子、コメディとシリアスを両立させる器用さ 『新宿野戦病院』ヨウコの“言葉の重み”
『新宿野戦病院』(フジテレビ系)において、アメリカ国籍の元軍医で岡山弁と英語交じりの話し方をするという時点で、キャラの大渋滞を起こしているヨウコ・ニシ・フリーマン役を演じる小池栄子の熱演が話題だ。 【写真】患者に全力顔で向き合うヨウコ(小池栄子) クセの強い岡山弁と独特な英語を織り混ぜて、ストレートにサラッと本質を突く会話は、何を言っているのかわからないはずなのに周囲を聞き入らせてしまうし、言葉の裏にほとばしる想いが滲みなぜか伝わるものがある。相手の年齢や立場には一切興味がなく極めてフラットに接するヨウコに家出少女・マユ(伊東蒼)らが心を開き、いつの間にか懐いてしまうのも頷ける。 ヨウコからは野性味と生命力が溢れており、命に対してどこまでもとことん“平等”だ。事実をそのままに受け止める力があり、誰かを必要以上に被害者にしたり、加害者にすることがない。 本作でもコメディ部分と真面目な要素を自然に両立させられる器用さが際立つ小池だが、これまでもはつらつとした芯の通った強い女性を演じることが多かった。主演を担った『コタツがない家』(日本テレビ系)では、やり手のウエディングプランナーながらも家では三世代に渡るダメ男を養うことになる主人公を等身大で演じ、親近感を感じさせた。大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合)では北条政子役を好演し、第1回から最終回まで大きく物語を牽引したキーパーソン役を見事に務め上げた。特に、政子が力強い言葉で語り御家人を鼓舞させる「演説」に心掴まれた視聴者も少なくないだろう。 華やかな存在感に圧倒的なオーラ、真っ直ぐで気持ちの良いキャラクターは小池自身が生まれ持った天性の素質だろうが、『美食探偵 明智五郎』(日本テレビ系)ではこの求心力が違う形で生かされていた。言葉巧みに依頼者の心を揺さぶり掌握するマグダラのマリア役を妖艶に演じ切り、周囲を惑わし夢を見させるカリスマ性を見せつけた。
小池栄子の“ターニングポイント”となった『八日目の蝉』安藤千草役
そんな中、彼女自身も自身の役者人生のターイングポイントとなったと振り返るのが、映画『八日目の蝉』でのフリーライター・安藤千草役だ。主人公の恵理菜(井上真央)の誘拐事件について記事にしたいと近づくも、猫背で彼女に駆け寄る姿はどこからどう見ても不審者。挙動不審で早口で、いかにも他人との距離感を適正に保つのが苦手だろうことがすぐに伝わる人物造形が素晴らしかった。共に誘拐事件の足取りを追うことになるが、徐々に千草が抱えるトラウマも明かされていき、そんな中でも不器用ながら恵理菜と心を通わせていく自然な変化には心奪われた。 本作でも軍医として戦地に赴いたヨウコだけが体感した生き死にの現実があり、その実感が彼女の言葉に重みを与えているのだろう。その裏にはまだまだ我々の知らないヨウコが存在することを想像させられる。あんなに明け透けなヨウコに奥行きをもたせられる小池、やはり恐るべしである。 そんな彼女が日本に帰国した目的とは何なのか。また彼女を追う男は何者なのか。歌舞伎町の街のカオスと負けず劣らずの「聖まごころ病院」のカオスごと味わい尽くしたい。
佳香(かこ)