ヤギと一緒に人生の“みちくさ”を……幼き日にヤギに救ってもらった女性の決心
さっそく池田陽子さんは、ヤギを通じて多くの人に触れあってもらうためには、どんな準備が必要なのか調べてみました。すると、「愛玩動物飼養管理士」という資格があることや、1年間の動物に対する実務経験が必要なことが分かります。 陽子さんは、知り合いのツテを辿って、動物病院でのアルバイトを始めました。一方、神奈川県内でヤギを飼育している牧場を訪ねて、ヤギを受け入れるために、牧場主さんとの信頼関係を作っていきます。 さらに、横須賀には、「Miraie(ミライエ)」という、夢を叶えようとする人を応援する団体があることも分かって、陽子さんの考えに共感して、無償で土地を貸してくれることも決まっていきました。
そして、2023年5月、陽子さんのプロジェクトが産声を上げます。小さい頃の「みちくさ」の思い出にちなんで、「みちくさラボ」と名付けました。「ヤギがいる!」とウワサを聞いた人たちが、少しずつ「みちくさラボ」にやってきて、ふれ合い体験を楽しんでいく方が増えていきました。 そのうち、陽子さんのママ友だった方が、久しぶりに声をかけてくれました。 「陽子の夢を応援したいから、今度、学校へ来て授業をやってよ!」 2頭のヤギと一緒に小学校を訪ねて、自然と命の大切さについて出張授業を行うと、エサやりをした子どもたちが笑顔いっぱいで喜んでくれました。
「みちくさラボ」の誕生からちょうど1年。ボランティアの協力者も増えて、その活動の広がりに、陽子さんも驚いています。 「夢みたいですね。きっと、ヤギさんには人を惹きつける力があるんですよ!」 じつはヤギは寂しがりで、1頭だけで飼育することが出来ません。力も強いため、人間が1人で面倒を見ることも、まず無理な動物なんです。ヤギがいると、自然と人間同士で声を掛け合って、助け合う必要が生まれます。そんな特性がヤギの周りに人が集まる理由ではないかと、陽子さんは考えています。 いまでは、「みちくさラボ」のヤギとのふれあい体験に訪れた人が、1日ボーッとヤギのしぐさを眺めるうちに、日ごろの悩みをポツポツと話し出す人もいるといいます。
池田陽子さんは、幼き日に、「みちくさ」をしながら学校から帰った自分自身の姿に思いを重ねながら、こう話してくれました。 「コスパ、タイパの時代っていいますが、そう上手くいくことばかりじゃないと思うんです。人生だってもっと、“みちくさ”をしてもいいんじゃないでしょうか?」