ヤギと一緒に人生の“みちくさ”を……幼き日にヤギに救ってもらった女性の決心
それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
神奈川県横須賀市で、去年から2匹のヤギが草を食んでいます。1頭は、好奇心旺盛で活発な白いオスのヤギ・メイ太くん。もう1頭は、おしとやかな茶色いメスのヤギ・くりちゃん。飼育しているのは、市内にお住まいの池田陽子さん(50)です。 陽子さんは、千葉・流山のご出身で、小さい頃は家の近所の幼稚園で飼育されていたヤギのところに、「みちくさ」をしながら帰るのが常でした。ご両親は共働きで忙しくて、学校から帰っても、家には誰もいなかったんです。さらに、学校から配られる授業参観のお知らせが、陽子さんにとっては苦痛でした。
そんな陽子さんに、子供のいたずら心が芽生えます。 『どうせ来てくれない授業参観……、お知らせのプリントをヤギさんに食べてもらおう』 陽子さんがランドセルから、わらばん紙を差し出すと、ヤギはまるで童謡の「やぎさんゆうびん」のように、何も読まず、ムシャムシャと食べてくれました。そして、ヤギが口角をクッと上げて、ニコッと笑ったような表情をすると、陽子さんはどこかホッとして、自分を受け入れてもらったような気持ちになりました。 その後、大学を卒業した陽子さんは、お勤めを経て結婚。ご主人の転勤で横須賀に移り住み、お子さんの成長に合わせて、再び仕事を始めました。しかし、体調を崩してしまい、改めて人生を見つめ直す機会が生まれます。
ふと、小さかった頃、ヤギとふれ合って楽しかった経験が思い出されました。 『子供の頃、居場所が無くて、ヤギさんに救ってもらった私……。今度はヤギさんと一緒に、まわりのみんながホッとできる場所を作ってみたい!』 その気持ちを、思い切って知り合いの人たちにも話してみました。 「いいじゃない! 何も100点満点で開業する必要はないよ。たとえ60点でも、ヤギと一緒に癒しの場所を作るなんて、試してみるだけで面白いよ!」 その言葉に後押しされた陽子さんは、思い切ってヤギを飼う決心をしました。