「コレステロールは下げなくていい」。医学博士・柴田博×和田秀樹が斬り込む日本医学の闇
本当の悲劇はこれから
和田 柴田先生も僕も「コレステロールは高くせよ」と言い続けているわけですが、なかなか分が悪い(笑)。 柴田 逆転のチャンスはあったんですけどね。1993年、コレステロールを最も敵視したフラミンガム研究の30年間の結果を分析し、コレステロールは高いほうがいいという論文が発表されました。ところが日本の医学界もマスコミも無視でしたね。 和田 日本の医学界の悪い部分です。最初に理屈を作る。「コレステロールが高いと心筋梗塞になる」とか「血圧が高いと脳卒中になる」と。そして一度その理屈で動きだすと軌道修正ができない。間違いだとわかっても非を認めないんです。そうした風潮が、今回の悲劇にもつながったと僕は思っています。 柴田 はい。サプリで甚大な被害が出てしまいましたね。 和田 紅麹が腎障害を起こしたと問題になっています。でもそもそもは、コレステロールを下げようとしたところから問題は始まっているんです。 柴田 そう。コレステロールは下げなくていいのに「下げなきゃダメ」と思いこまされた。 和田 コレステロールは細胞やホルモン、神経の基になる物質です。身体を丈夫にし、心を健やかにするには欠かせません。血管の柔軟性も高めます。 柴田 コレステロールが足りないと、元気はなくなるし、免疫力も落ちるんです。病気に弱い身体になってしまう。 和田 がんにもなりやすく、感染症にもかかりやすい。ろくなことはありません。日本はがんで死ぬ人が多い国ですから、コレステロールは下げちゃいけないんですよ。今回はサプリによる腎障害が発覚しましたが、そのまま飲み続けたら違う弊害が出ていたかもしれない。 柴田 その可能性はある。証明できないからこれ以上は言いませんけどね。でも皮肉な話ですが、アメリカが自説を訂正した1993年頃から日本ではコレステロール低下薬が出始めた。 和田 それから30年ですよ。柴田先生はもっと前、50年前からコレステロールが高いほうが長生きするとおっしゃっています。 柴田 はい。それなのにコレステロールをバイ菌のように扱って、下げるよう誘導してきた。 和田 今やその薬の市場だけで6000億円といわれる。ブレーキが利かない原因はこんなところにもあるのかもしれません。でも被害に遭うのは国民です。 柴田 ハチャメチャですね。やはりまだ、命が続く限り闘うしかありませんね(笑)。 和田 それが柴田先生のお元気とエネルギーの秘訣なのでしょうね。 柴田博/Hiroshi Shibata 医学博士。1937年北海道生まれ。北海道大学医学部卒業。桜美林大学名誉教授。東京都健康長寿医療センター研究所名誉所員。老年学についての研究と教育を一貫して続けている。著書に『長寿の噓』『なにをどれだけ食べたらよいか。』など著書多数。 和田秀樹/Hideki Wada 精神科医。1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業後、同大附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て現職。30年以上にわたり高齢者医療の現場に携わる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。
TEXT=山城稔