『パスト ライブス/再会』グレタ・リー 誠実でリアルで、少し心地悪さもある映画【Actor’s Interview Vol.38】
“恋に落ちる”という感情
Q:この映画は、素晴らしい「視線と佇まい」で構築されていて、それが最大限に効果を発揮しています。映画に出ている人も見ている我々も、視線と佇まいが生み出す「間」に我慢できるかどうか、本当にギリギリのところを突いてくるかのようです。実際に演じていていかがでしたか。 リー:まさにその通りだと思います。今回の準備には時間と労力を要しました。セリーヌとは、時代に逆行すること、場合によっては過去に戻ることについて話していました。私たちが現在観ている映画が、いかにスピードを重視しているかについて考えたんです。観客が目を逸らさないように、携帯を見ないように、作り手は必死に意識を向けさせる必要がある。気が散る要因は周りに沢山あるので、何かしらのトリックを用いて集中させる必要がある。でもそれではあまりにも浅い映画になってしまう。そして最終的に心は満たされずに終わってしまうのです。 また、恋に落ちるというのは果たしてどういう感情なのか、それを現実のものとして感じられることを追究しました。恋に落ちるその一瞬では、恋愛に伴うすべての感情が湧いてくる。死にそうな気持ちになり、恐怖を感じ、喜びを感じ、あらゆる感情が渦巻くはず。この感情の重なりこそがこの映画の目的。それを実現するために、急かしたり、派手な演技を避けるよう努めました。セリフのないゆっくりと流れる静かな時間に、観客は自らを投影することができるはず。そう信じていました。だって私たちの人生はまさにそうだから。 それで参考にしたのは、マリーナ・アブラモヴィッチの「The Artist Is Present」というアート作品でした。マリーナがテーブルの向こう側に人を座らせて、言葉を交わさずに会話をするという作品で、元恋人のウーレもその場を訪れて、2人は何年かぶりに再会するんです。そのような時、人間の身体はどう反応するのか、それを観察しました。だからテオ(ヘソン)と私の間でも、ただ流れに身を任せるのではなく、動作やしぐさなど緻密なところまで意識を向けて演技をしました。とても大変だったけれど、ワクワクしたし充実感も得られた。観た人から共感できたというコメントももらえて、誇らしく感じています。 Q:セリーヌ・ソン監督はこれが長編デビュー作とは思えないほど、堂々とした作品を作り上げましたが、ソン監督との仕事はいかがでしたか。 リー:すばらしい体験でした。私はハリウッドで20年のキャリアがありますが、彼女のような人と会ったのは初めてだったし、驚きの連続で学ぶことも多かった。あれだけの確信を持って才能を発揮している人は初めて見ましたし、彼女は品位もあって優雅なんです。あんなに自信に満ちているなんて普通は考えられません。彼女を見ているだけでもワクワクしました。 たとえ周囲に雑音があっても、彼女は求めているものが分かっていて、伝えたいストーリーやその伝え方がはっきりと見えている。それは役者にとっては最高の贈り物ですね。私が果たすべき役割も明確になるし、より自由に実力を発揮することができる。今回の出演は人生で最も深く特別な体験の一つとして、ずっと心に残るでしょう。
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