大竹しのぶ「反戦の思い言葉で伝えたい」…林芙美子の半生たどる「太鼓たたいて笛ふいて」10年ぶり再演
「放浪記」などで知られる作家・林芙美子の半生を音楽を交えてたどるこまつ座公演「太鼓たたいて笛ふいて」が10年ぶりに上演されている。井上ひさし作で2002年に初演され、再演が続く作品。初演から芙美子を演じる大竹しのぶは「役者っていうのは、肉体を通して言葉を伝えていく仕事なんだと深く理解させてくれた戯曲」と言う。 【写真】「太鼓たたいて笛ふいて」の東京公演で林芙美子を演じる大竹しのぶ(撮影・宮川舞子)
日中戦争迫る時代に流行作家として名をはせた芙美子(大竹)。小説に行き詰まりを感じていた時、金もうけがしたい三木(福井晶一)の説得で従軍記者となった。シンガポールやボルネオなどを訪問し、戦争賛美の記事をひたすら書く。やがて第2次世界大戦が終わり、芙美子が取り組み始めたのは反戦への思いがにじむ文学だった。47歳で急逝するまで、人々の生活の美しさを紡ぎ続けた。演出は初演から変わらず栗山民也が担う。
初めてこの舞台に立ち、セリフを客席に放った時の感覚が忘れられない。「『染み渡る』ってこういうことだって。砂が波でさぁーっとぬれていくように、みんなの心に言葉が入り込んでいく。優しい言葉で深いことを言う井上さんの言葉の力。役者として、この経験ができたのは大きかった」
捕虜生活を経て帰国した相手に「おかえり」と声を掛ける場面では、ト書きに「(全世界の愛を込めて)」と記されていた。「表現できるかできないかは別にして、こんな深い『おかえり』を言えることがうれしくて。言葉を伝えることが役者の仕事だと確信した」。その思いは今も変わらない。
世界情勢は大きく変わった。ロシアによるウクライナ侵略やパレスチナ自治区ガザでの戦闘が続く。「毎日戦場の様子がわかり、戦争を身近に感じるようになった。こういう時だからこそ、この芝居を若い方にも見てもらえるよう切に願う」と力を込める。
1975年にデビューし、日本を代表する女優の一人として、確固たる地位を築く。「あまり先のことは見ず、与えられた仕事を、でも意味のある仕事をやっていけたら」。柔らかな語り口ながら、言葉には信念がにじんでいた。(池内亜希)
来月、新歌舞伎座
関西では、12月4~8日に新歌舞伎座(大阪市天王寺区)で上演。出演はほかに、高田聖子、天野はなら。(電)06・7730・2222。