私「待機」やめました(1) 夫婦交代制の育児
保育園が足りない―待機児童問題の解決が急務となっている中、神奈川県内でも各自治体が対策を図っている。都市部を中心に保育園の新規開設や幼稚園での預かり保育の導入が進められ、横浜市は今年4月時点で、昨年より3,764人多い58,765人の児童が保育園を利用できる環境を整備した。しかし実際のところ、保育園利用申請者数は環境整備によって増えた定員を遥かに上回り、待機児童数は7人にとどまったものの、保留児童(=希望する保育園には入れなかったが、一時保育や親の育休の延長などでしのいでいる児童)は前年比583人増の3,117人。昨年初めて待機児童ゼロを達成した川崎市でも、待機児童は全体で6人、保留児童数は前年比323人増の2,554人だった。 保育園入園の条件は、親の仕事時間や頻度などに応じて各自治体が設定している。多くが点数制や階級別で決められており、一番点数の高いフルタイム勤務の家庭でも、一部の地域では入所できないケースもあるほどだ。しかし、果たして保育園を増やすことばかりが、少子化対策ならびに女性の社会進出を促進する解決策なのだろうか。本当にもっと子どもを生み育てたいと思う社会とは、どんな社会なのだろうか。
子どもを預けずに働きたい
美絵さん(仮名)は、核家族でありながら、子どもを保育園に預けない選択をした一人だ。より良い子育て環境を求めて、昨年11月に横浜中心部のマンションから藤沢市に一家で引っ越した。閑静な庭付きの一軒家に、警察官の夫と今年2歳になる娘の3人で暮らしている。独身の頃はセーリングを楽しんでいた美絵さんは、海にも自転車で10分ほどの自然環境豊かな立地を気に入っている。近くの川沿いでは、野花を愛でることもでき、幼い子どもとの散歩コースに困らない。 大阪府堺市出身の美絵さんは、中学生の頃、図書館で開発途上国の写真集を見たことから、途上国援助や海外協力に興味を持ち、看護師を志した。不妊治療を専門に行う婦人科のクリニックに勤務し、患者たちの妊娠したいという思いに寄り添う仕事にやりがいを感じていたが、結婚を機に退職。ほどなくして子どもを授かった。 仕事を辞めて育児に専念していた美絵さんが昨年、看護師の仕事を再開したというので、保育園入園がかなったのかと思いきや、保育園には入園していないという。なんでも、夫に子どもを預けて看護師の仕事に出ているというのだ。警察官である夫の勤務体制は、朝から宿直・泊まり明け勤務で昼に帰宅・休日の3日サイクルをおおむね規則的に繰り返す。曜日に関係なく3日に一度休みが取れるため、その仕事の合間を縫って看護師として働ける職場を探し、健康診断を行う団体に登録することになったそうだ。 仕事に復帰した理由を訊ねると、「1歳くらいから急に育児が苦しくなってきた」という。「子どもと2人きりで向き合っていることがつらくなってきた。だから、ちょっと働きたいなと思いました。復帰してみると、仕事をするということは社会とつながる細い糸なのだと確信しました。育児だけでは行き詰まってしまう生活も、定期的に仕事ができる環境があることで、自分を取り戻す時間が生まれます」。 保育園に入所させることは考えなかった。「イライラすることもあるけど、基本的に子どもが成長していくのは楽しみで、日常の時間はなるべく一緒にいたいと思いました。保育園に預けるのは正直罪悪感を感じてしまう部分もあります。」 子どもを保育園に預けたいわけではない、でも、自分が自分でいられる時間として仕事をしていたい。専門性を持つがために、仕事時間帯が特殊でいられる夫婦だったからこそできた選択だ。働くことを特定の時間帯に制限されている一般的な会社員家庭であれば、この発想は実現しにくいかもしれない。