リコー、2024年度上期は増収減益 約1000人の希望退職実施で利益計画を下方修正
株式会社リコーは8日、「企業価値向上プロジェクト」の進捗状況について説明。1000人規模を対象としたセカンドキャリア支援制度を導入し、デジタルサービスの会社としてあるべきリソース体制を見極め、適切な構造への移行を目指す姿勢を強調した。 【画像】企業価値向上プロジェクトの進捗(人的資本) リコーの大山晃社長 CEOは、「リコーが目指す姿は、オフィスプリンティング事業の利益を極力守りながら、自社の資産を最大限に活用し、事業構造の転換を図り、利益成長を目指すものである」と、同社の基本姿勢を説明。 「オフィスプリンティング事業は縮小していくものの、スケールメリットを追求しながら徹底した効率化を図り、収益を維持していく。そのために東芝テックとのジョイントベンチャーであるエトリアを設立し、生産および開発体制の効率化や、SCMの効率化、間接機能の適正化により、経費の削減にも取り組んでいる」とした。 一方でオフィスサービスについては、「顧客基盤や顧客接点を最大限に活用し、ワークプレイスサービスプロバイダーとして新たな価値を提供する。そのために経営資源の再配分と集中投下を行うことになる。R&Dの適正化や、選択と集中に加えて、セカンドキャリア支援制度やリスキリングなどの人的資本政策を実施し、プロセスオートメーション、ワークプレイスエクスペリエンス、コミュニケーションサービス、ITサービスといった成長領域に経営資源を投入する。ストック収益基盤を積み上げ、収益率の向上を図る。自社ソフトウェアへの投資とともに、グローバルに効率的にソリューションを展開するためのプラットフォームの強化を進める」との方針をあらためて強調した。 また、「利益成長に加えて、ソフトウェアを中心としたアセットライト経営を追求し、バランスシートの改善も図る。これにより、持続的にROEの改善につなげるというのがシナリオである。企業価値向上プロジェクトは、バリューチェーン全体で構造改革を行うものであり、2024年度はこれを遂行する1年と位置づけた。2025年度には、その果実を確実に刈り取っていく」と語った。 同社が9月12日に発表した国内セカンドキャリア支援制度は、2025年2月28日までに、1000人程度の人員を募集。「デジタルサービスの会社として必要なスキルと人員の強化を推進するとともに、事業環境の変化に即して、各地域でリソースの最適配置を推進しており、この一環として、海外での人員最適化に加えて、新たに国内でのセカンドキャリア支援制度を実施する。デジタルサービスの会社としてあるべきリソース体制を見極め、適切な構造への移行を目指す」とした。 なお、企業価値向上プロジェクトでは、2025年度までに、2023年度比で600億円超の収益構造変革効果を創出することを目指しており、2024年度までに190億円の効果を創出。現時点での2025年度末の想定効果額は520億円まで積み上がっているという。 「600億円超の効果創出に向け、引き続き、効果最大化に取り組む。80億円のギャップ解消に向けた追加施策などについては、2024年度通期決算発表の際に説明する予定である」とした。 収益構造変革効果の内訳は、本社改革では、R&D適正化で約150億円、間接機能適正化で20億円超。事業の選択と集中の加速では、従来の20億円超を見直して、50億円超を見込む。また、オフィスプリンティング事業の構造改革では、開発・生産JVが40億円超、SCMの最適化が30億円超。オフィスサービス成長の加速においては、販売・サービス体制の見直しで、期初計画の100億円を見直し、230億円超を見込んでいる。 また、事業の選択と集中を加速し、植物由来のPLA(ポリ乳酸)を主原料とした発泡シートであるPLAiRの事業をはじめ、複数の事業の撤退も決定した。だが、PLAiR事業以外の撤退事業については、「相手があること」として、現時点では明言しなかった。 さらに、販売・サービス体制の見直しでは、海外において追加の構造改革を実施する。 そのほか、リコーデジタルアカデミーを活用したIT・データ活用人材教育を実施。社内IT資格であるデジタルエキスパートスキルの取得を推進し、これまでに3800人を認定。全社員のデジタルスキル強化を図っている。リスキリングプログラムも推進しており、AIエンジニアやSEなど、顧客接点を担うデジタル人材と、DXによる業務効率化を担うプロセスDX人材といった事業成長に必要な職種の強化を図る。 こうした取り組みにより、一時費用は、期初時点の100億円から、330億円に増加。事業の選択と集中の加速で40億円増、販売・サービス体制の見直しで30億円増としたほか、セカンドキャリア支援制度で160億円を計上。2025年度には約90億円の費用削減効果を見込む。 なお、リコーでは、経済産業省の生成AI開発力強化プロジェクトの「GENIAC」に参画。「AIの分野では、日本の企業ごとに知が分散している。マルチモーダルLLMが活用できるようにしていく必要があり、オフィスの情報を長年取り扱ってきたリコーの強みが発揮できる。サービス領域やAI領域への投資の成果が出ている」などとした。 ■ 2024年度上期業績は増収減益 一方、リコーが発表した2024年度上期(2024年4月~9月)の連結業績は、売上高は前年同期比8.1%増の1兆2025億円、営業利益が同65.2%減の68億円、税引前利益は同46.5%減の131億円、当期純利益は同40.6%減の92億円の増収減益となった。 リコーの川口俊CFOは、「増収減益ではあるが、国内セカンドキャリア支援制度などによる追加費用を計上した企業価値向上プロジェクトの影響を除くと、ほぼ期初見通し通りの進捗となっている」とした。 セグメント別では、リコーデジタルサービスは、売上高が前年同期比4.6%増の9237億円、営業利益は前年同期から159億円減の30億円。「オフィスサービスではストック売り上げを着実に積み上げ、オフィスプリンティングも製販がいずれも正常化したが、ノンハードが弱含みで推移。海外販売およびサービス体制の見直しによるプロジェクト費用の追加計上により、増収減益となった」と語った。また、ストックの成長につながる重点商材を設定して、これが事業拡大に貢献していることにも触れた。 日本におけるオフィスサービスの売上高は、前年同期比10.9%増の2046億円となった。ITサービスや、アプリケーションサービスでは前年実績を上回り、スクラムシリーズ合計では同26%増の818億円。そのうち、スクラムパッケージは同29%増の366億円、スクラムアセットは同23%増の451億円。スクラムパッケージの販売本数は同2%増の4万3279本となった。 また、「日英中の3言語に対応した700億パラメータの大規模言語モデルを開発した。日本だけでなく、AIの導入は今後拡大していくことになる」と述べた。 欧州のオフィスサービスは、売上高が前年同期比6.6%増の1260億円となり、景気が弱含みの影響はあるものの、ITサービスやアプリケーションサービスは継続して伸長しているという。 DocuWareの売上高が前年同期比18%増と成長したほか、2024年4月に買収したnatif.aiによるAI技術をグローバルで活用。より効果的なアプリケーションの提供が可能になっているという。natif.aiは、欧州に加えて、日本、アジアにも事業を展開していく計画であり、natif.aiのAI技術とDocuWareの製品を組み合わせた案件獲得にも取り組む。 米国のオフィスサービスは、売上高は同8.6%増の849億円となった。業務効率化とプライシングコントロールによりオンサイトの収益性が改善。特に、ワークプレイスエクスペリエンス(WE)は、約2年前に買収したCeneroとのシナジーが拡大し、約3倍の受注を獲得。米州既存顧客への提案を進めており、パイプラインも140%の成長となっている。また、オフィスサービスの体制強化も継続しているという。 リコーデジタルプロダクツは、売上高が前年同期比17.5%増の2754億円、営業利益は122億円増の140億円。「MFPの生産および出荷量の増加があるほか、海上輸送のリードタイム長期化への対応も完了した。東芝テックのジョイントベンチャーとして、7月1日に発足したエトリアが収益に貢献している」という。エトリアによる共通エンジンの開発、リコー開発製品および東芝テックの開発製品を相互ブランドで展開。環境対応やBCPを踏まえた最適な生産拠点体制を構築したという。 リコーグラフィックコミュニケーションズは、売上高が前年同期比16.5%増の1402億円、営業利益は48億円増の108億円。好調を継続しており増収増益を達成。drupa2024での受注案件の納入がスタートしており、これが下期に本格化するという。 リコーインダストリアルソリューションズは、売上高が前年同期比10.8%増の574億円、営業利益は8億円減少し、マイナス19億円の赤字となった。 なお、2024年度(2024年4月~2025年3月)通期業績見通しを修正し、売上高は500億円増加の前年比8.6%増の2兆5500億円としたが、営業利益が180億円減少の同16.2%減の520億円、税引前利益は150億円減の同15.0%減の580億円、当期純利益が100億円減少の同14.0%減の380億円と、当初の増益計画から減益計画に見直した。 売上高は、為替影響による積み増しを反映。営業利益では、主に企業価値向上プロジェクトの費用や効果を見直して下方修正した。 「下方修正になっているが実態は落ちているわけではない。MIFマネジメントの強化や高付加価値提案を含めたプライシングコントロールの継続のほか、来年度には、構造改革成果をしっかりと刈り取り、収益にしていく」と述べた。
クラウド Watch,大河原 克行