鳥山明、24年前の名作「SAND LAND」 なぜ今、ゲーム・アニメ化?
人間社会を魔物視点で見る面白さ
――試遊して思ったのですが、NPC(ノン・プレーヤー・キャラ)にもみんな名前がついていますよね。 南 会話できるキャラクターはそうですね。ゲーム化するときのテーマはいくつかあるんですが、一つに「没入感」があるんです。名前をつけたのもそのためですね。村人ABCだと味気ないしそっけないじゃないですか。だから人間と魔物との共存、コミュニケーションは大切にしたいなと思っていました。 ――バトルや操作に直結しない部分にも没入感のための演出があるということですね。 南 先にSAND LANDには現代に通じるものがあると言いましたが、砂漠で困窮している人々や、水を独占する独裁者などが出てきて、ちょっと暗い世界になりかねないテーマも含んでいます。 ただ、そこは鳥山先生のらしさが存分に生きていて、魔物たちは人間ほど苦労していないんですよ。水は奪えばいいし、ベルゼブブはそもそも2500年生きているので、自分たちはこの世界を別にどうとも思ってないけど、人間たちは困窮しているなぐらいの客観的な立場にいます。 だからこそ、自分たちが暮らす魔物の里ではユーモアあふれる会話があるし、勝手に楽しくやっているんです。そういう鳥山先生らしさをしっかりゲームで表現したいという思いがありましたね。 ゲームで魔物の里に行くと、魔物たちがペットボトルを積み上げて遊んでいたり、音楽に合わせて踊っていたり、そういう演出も入れています。 ――おっしゃるように原作のテーマは20年以上たっても古びていないと思います。逆に、だからこそ、今回天使の勇者編を追加する際には、いろいろな議論があったのではと思うんです。例えば、今っぽい話にするのか、どうするのか。 それと、今、SAND LANDに普遍性を感じるのは、私が大人だからかもしれないとも思うんですよね。今の子供たちがどう感じるのかがまだ分からない。そうした点で、現代との接続というか、SAND LANDを初めて見る若い世代にも通じる作品にするための議論はあったのでしょうか。 南 そうですね。天使の勇者編では、サンドランド軍とフォレストランド軍の戦いの要素があります。戦争のようなイメージですね。ただし、ゲームのプレーヤーにはそれをあまり強く感じさせないように意識しました。 というのもベルゼブブをはじめとする魔物たちは、そもそも人間社会に対して客観的な視点を持っています。プレーヤーが操作するのはベルゼブブなので、プレーヤーにもその視点から人間たちの社会を見て、感じ取れるようなものを一つ伝えられればいいかなと考えました。 ――原作でも天使の勇者編でも、人間社会で起こっていることは非常に人間らしくて、それをベルゼブブの視点で俯瞰(ふかん)して見るというのは、この作品ならではですね。 ●原案を物語に落とし込む苦労 ――原作を基に作られた映画、アニメシリーズでいう「悪魔の王子編」はベルゼブブとラオが出会い、ともに幻の泉を探すというある意味シンプルな話です。天使の勇者編はそれに続く話だからこそ、登場人物が増え、ストーリーも多層化します。特にキーとなるキャラクター、天使「ムニエル」は複雑なキャラクターですよね。 南 天使の勇者編は鳥山先生が原案をお考えになり、ムニエルも自らデザインされました。ただ、作り手として一つ難しいなと思ったことがあるんです。 それは先にも言ったとおり、ベルゼブブは人間社会にはあまり興味がない、客観的に一歩引いているんですよね。それがどうしてサンドランド軍とフォレストランド軍の戦いに関わっていくことになるのか。その動機づけは少し苦労しました。 結局は、悪魔であるベルゼブブと天使であるムニエルの対立構造をシンプルに描き、周りを補強する形でいつのまにか人間同士の争いに巻き込まれていくという構造にしています。 ――なるほど。鳥山先生が考えたプロットを具体的なストーリーに落とし込む上でベルゼブブの状況にどうリアリティーを感じさせるかはかなり考えたということですね。 南 考えましたね。 あと、やはり人間は悪魔に対して元々恐怖心を感じています。でも悪魔の王子編でベルゼブブが活躍して、魔物と人間の関係性も変化するんです。ゲームではそうしたところも描きました。 もう少し具体的にお話しすると、最初のうちはサンドランド軍が敵としてベルゼブブたちを攻撃してきます。でもストーリーが進むと攻撃してこなくなります。こちらからパンチを一発入れると敵と認識されて攻撃されますけど、そこはプレーヤーに「そうだよね」っていう、矛盾がない作りにしています。 ――今後のプロモーションはどうしますか? 南 アニメを軸にまず認知度を広げ、ゲームも合わせてプロモーションを展開していきます。フィギュアや超合金なども順次発売しますから、一気にSAND LANDの話題を広げていきたいですね。 SAND LANDは我々の独自IPではなく、あくまでもお預かりしているIPです。ですが、その魅力を最大化させることは我々の使命だと思っています。SAND LANDの魅力を世界中に届けていきたいですね。 ©バード・スタジオ/集英社 ©Bandai Namco Entertainment Inc.
平野 亜矢