元年俸120円Jリーガー安彦考真が考えるステップファミリーの苦悩と葛藤と喜び
妻と結婚して2年。ステップファミリーになって2年。妻は若くして結婚をして20歳で第一子を産んでいる。そんな長男はもうすぐ16歳になる。この時点で自ずと妻の年齢がバレるので怒られそうだが、隠すような年齢でもない、と勝手に男は思うものなのだが…このあたりがいろいろと難しい(笑い)。 妻には長男と長女の2人の子どもがいる。出会った当時は息子が小学校5年生で、娘は4歳でまだ保育園生だった。妻たち家族は北海道に住んでいたので、会えても月に1度。会えない時は半年以上、子どもたちと交流することはなかった。 そんな中でも息子がサプライズプロポーズを手伝ってくれたり、娘と一緒にお出かけしたりとスモールステップではあるが距離を縮めているつもりだった。2023年3月に籍を入れて、その年の4月から家族4人の生活が始まった。今、思い返すと本当に大変だった。それは僕がではなくて、家族1人1人がという意味でだ。 妻は北海道での仕事を辞めて初めての東京暮らし。友だちもいない。仕事も一から探さなければならない不安もあったと思う。慣れた地から出て行くのはエネルギーが必要だ。 息子は中学校へ行かないいわゆる「不登校」の時期が1年間続いていた。地元は狭い街だから外に出れば同級生に会ってしまうのではないかと考えすぎてしまい、家から出ることがあまりできなかったようだ。その中での中学生ラスト生活がいきなり東京で始まった。毎日葛藤の日々で、行きたくない息子VS行かせたい母親のバトルが毎朝行われていた。 娘はそこまで何か自己主張をするタイプではないから大きな問題を抱えていたわけではないが、今思うとすごくストレスだったのだと思う。ご飯が飲み込めなくてずっと口の中に食事を入れたままの状態。どれだけかんでも一向に飲み込まず、食べ終わるのに1時間以上はかかっていた。今思えばストレスだったんだなと。 そんな中、僕は僕で葛藤だった。息子が学校へ行かないのはそこまで気にならない性分だ。僕も真面目に行っていたわけではないから、なんとなく気持ちはわかる。とはいえ行かないことが正義ではない。もちろん行くことも正義ではないし、行かないことが悪でもない。ただ、やはりなぜ行きたくないのか、なぜ行かないのかはちゃんと解明する必要があった。 ふと思うと学校に行かない子には「なぜ行かないのか?」と聞くが、行ってる子に「なぜ行くのか」と聞いたことがない。聞いたら聞いたでやぶ蛇になる可能性もあるし、どこか当たり前だと思っているのだろう。 話を元に戻すが、息子VS母親のバトルは結果的に父親である僕のところへ回ってくる。まだベッドからも出ようとしない息子へのワーストアプローチは、できるだけ大きな足音で部屋の近くまで向かって行くこと。これが非言語のコミュニケーションでもある。さすがに息子がどれだけ大きくなろうが僕は格闘家だ…しかも現役の。何があっても絶対に僕の方が強い(笑い)。そんな関係性も含めて非言語でのコミュニケーションが活きる。 学校へ行かない期間が1年間もあった彼からすれば、1週間行けばかなり頑張った方なのだと思うが、親はそう思えない部分もある。それは「いけるやん」という前提ができてしまうと面白いように「いけない」状態への理解はどこかへ吹っ飛んでいってしまう。 そんな中でも、僕が過去イチ怒鳴り散らしたことがある。細かくは言えないが、「逃げている」現状をそのままにはしておきたくなかった。もちろんいじめなどがあれば逃げてもいい。というかそれは逃げではない。回避だ。 彼の場合は弱くて情けない自分からの逃げだった。1年間も行っていなければ、行くことへのエネルギーは想像以上のもの。だから疲れることはあっていいと思う。その時は休むべきなんだ。 しかし、休み癖のメンタルがついてしまい、言い訳が増え、逃げるという現実を知ってしまうと彼が大人になってからもこれを言い訳に、いざという時に向き合えなくなると思った。だから部屋が壊れるくらい怒鳴りつけた…(笑い)。 息子に厳しいと言われるが、当たり前だ。彼は社会で戦っていかなければいけない。転ばぬ先のつえどころか、転んだ後のセーフティーマットまで敷いてある状態では男は成長しない。転んで傷ついて、それでも立ち上がりながら自分の道を見つける力が必要なんだ。 彼との信頼関係は、今ではなく未来で作れたらいいと思っている。もちろん今でもあるが、まだまだ生ぬるいので、厳しく向き合っていかないといけないなと思う。本音を言えば、嫌われるより好かれたいから、良いことだけ言ってたいけど、それはステップダディのやることではない。というか僕のやるべき、あるべき父親像ではない。 娘とは未来の信頼関係以上に今の信頼関係が必要だと思っている。大人になってからではなかなか構築しにくいし、そのうち話も聞いてくれなくなるだろう(笑い)。娘に関しては、一緒に住み出した頃は「アビは家族じゃない!私の家族はママと兄とじいじとばあばだよ」と何度も念を押された…。何回も言うなよと悲しくなったのを今でも覚えている(笑い)。 ある時、娘と2人で散歩に行ったときに「パパ(実父)に会いたいか?」と聞いてみた。そうしたら「当たり前だよ!アビより会いたいよ!」と。僕は泣いた(笑い)。 泣いたは冗談だが、寂しかった想いはずっと残っている。ただ、それはそうだよな!と思う自分もいた。パパに会いたくて当たり前。子どもたちは、僕と妻の都合で東京に連れてこられた。そこに彼らの意思なんてなかったわけで。だから今は本当にごめんと思っているけど、思い返すだけで、あの時より辛い自分がいある。それは、時間がたって、今はあの時より親子だからだ。 2人でのデート時間が増えて、一緒に寝る時間も最近は多い。行ってきますのハグは欠かさない。僕がおでこにチューをすると手で拭き取っていた彼女だったが、今は何も言わずに受け入れてくれている。ステップファミリーは苦しいことも多く、理解し合えないことっもたくさんあるが、小さな幸せが何百倍にもなって返ってくることがある。 つい最近、娘にキッズ携帯を持たせた。その時に電話登録をするのだが、3人だけトップ画面に出るような(緊急で連絡できるように)仕組みになっている。娘はママとアビとマハト(息子の名前)と言った。あれだけ家族じゃないと言っていた「アビ」は家族になっていた。 それだけでもうれしかったのだが、その後妻が登録名何にする?と娘に聞いた。アビのところはパパでも良いんだよと妻が言うと、娘は「(登録名を)パパにする」と。その画像が送られてきた時は、本当になんとも言えない感情になった。このコラムを書いている今も、思い出すだけで変な感情になる。 実子を欲しいかと聞かれることがあるが、僕は息子と娘がいてくれたら最高に幸せなのでいらないと答えている。もちろん授かりものなので、神のみぞ知る的な感じはあるが、葛藤との戦いが幸せを作ることもわかっているので、これからも戦い続ける。 ステップファミリーに関して言うと、世の中的にはすごくシビアな問題で、変なアンチもいるが、全員無視!!僕は僕の家族を最高に大切にするだけ。とは言っても守りには入らない。家族のために時間を使うのではなく社会のためにできることをする。家族的にはもっと家族と一緒にいてほしいという思いもあるかもしれないが、その時間も含めて自分にできることをする。それが結果的に幸せにつながる。 ステップファミリーで迷ったり悩んでいる方も多いかもしれませんが、とにかく目をそらさず向き合ってみてください。伝わる瞬間は「今」ではなく「少し先の未来」かも知れませんが、必ずその思いは形になって返ってきます。言葉ではなく、大切な家族の形で返ってきます。 ◆安彦考真(あびこ・たかまさ)1978年(昭53)2月1日、神奈川県生まれ。高校3年時に単身ブラジルへ渡り、19歳で地元クラブとプロ契約を結んだが開幕直前のけがもあり、帰国。03年に引退するも17年夏に39歳で再びプロ入りを志し、18年3月に練習生を経てJ2水戸と40歳でプロ契約。出場機会を得られず19年にJ3YS横浜に移籍。同年開幕戦の鳥取戦に41歳1カ月9日で途中出場し、ジーコの持つJリーグ最年長初出場記録(40歳2カ月13日)を更新。20年限りで現役を引退し、格闘家転向を表明。22年2月16日にRISEでプロデビュー。プロ通算3勝1分け3敗。175センチ。