激化する南シナ海問題「フィリピン経済」における「中国のプレゼンス」は縮小
一般社団法人フィリピン・アセットコンサルティングのエグゼクティブディレクターの家村均氏が、フィリピンの現況を解説するフィリピンレポート。今週は、現状、フィリピン経済が先進国経済や中国経済にどのくらい依存しているのか、解説していきます。 【動画】日本のシン富裕層✖︎永住権・移住
「フィリピン」と「中国」の最新・関係値
野村総合研究所によると、フィリピンはアジア地域で中国経済への依存が最も低いため、中国の景気刺激策による影響が限定的であるとしています。 アジアの経済見通しに関するさまざまな不確実性、たとえば米国の経済力、米国の選挙、FRBの利下げのスピード、地政学的緊張のなかで、中国経済の景気刺激策が新たな要因として加わりました。 野村総合研究所の「エクスポージャー・スコアカード」によると、フィリピンは中国経済への最小のエクスポージャーを持ち、そのスコアは19です。このスコアカードは、輸出、コモディティ、投資、金融市場に対する影響を評価しています。他の国と比較すると、インドが35、日本が54、インドネシアが79、韓国が85、タイが108、香港が117、シンガポールが179。一方、オーストラリアは中国へのエクスポージャーが最も大きく、スコアは190となっています。 フィリピンが中国経済へのエクスポージャーが低い理由は、近年、地政学的緊張が中国からの外国直接投資(FDI)の流入を制限し、サプライチェーンの再編がフィリピンに恩恵をもたらしていることが指摘されています。 フィリピンと中国の関係は、特に南シナ海における緊張により、過去1年で悪化しています。中国は、フィリピンが領有権を主張するために第二トーマス礁に意図的に座礁させた旧日本軍の船に駐屯しているフィリピン兵への補給任務を妨害し続けています。 スコアカードは、シンガポールが中国の成長見通しから最も影響を受けやすいとする一方で、インドネシア銀行とフィリピン中央銀行はすでに利下げサイクルを開始しており、外国為替の安定に影響を与える要因(FRBの動向や地政学的リスク)が中国の成長見通しよりも重要だと指摘しています。 また野村総合研究所は、この数年で中国とアジアの関係が弱まったと指摘しています。中国は依然として重要ではあるものの、アジアへの波及効果は過去10年で弱くなっています。これは、アジアの対中国輸出の減少が原因です。また中国からアジアへの観光客数も減少しています。 2023年9月24日以降、中国は金融政策の緩和と株式市場への流動性支援を発表しています。経済活動を促進するために債務を大幅に増加させることを約束していますが、具体的な規模やタイミングについては明らかにしていません。 中国の景気刺激策がアジア全体にインフレ圧力をもたらすかどうかについて、野村総合研究所は必ずしもそうではないと指摘しています。中国の景気刺激策は通常、アジアにとってインフレ要因と見なされます。しかし、もし中国の景気刺激策が供給側、特に製造業向けのインセンティブや融資支援に向けられる場合、既存の過剰供給問題を長期的に悪化させる可能性があるとしています。 中国の景気刺激策がアジアの輸出に与える影響は、主に中国の不動産建設投資と中国国内の消費に依存しています。中国の不動産投資が刺激されると、アジアの輸出回復が広がり、コモディティ価格が上昇する可能性があるでしょう。中国の現行の景気刺激策が持続的な経済回復につながるかどうかは不明ですが、市場や通貨への影響を注視する必要があります。