「同性婚カップルが子をもつことを認める? 認めない?」…日本人が知っておくべき「同性婚に関する重大な法的知識」
「法の支配」より「人の支配」、「人質司法」の横行、「手続的正義」の軽視… なぜ日本人は「法」を尊重しないのか? 【写真】配偶者の不貞相手への慰謝料請求は「配偶者を支配している」という思想? 講談社現代新書の新刊『現代日本人の法意識』では、元エリート判事にして法学の権威が、日本人の法意識にひそむ「闇」を暴きます。 本記事では、〈不貞相手に慰謝料を請求するのは、「配偶者をモノのように支配している」から!?「不貞慰謝料請求肯定論」の根底にある「配偶者は自分の所有物」という考え〉にひきつづき、事実婚、同性婚をめぐる法意識について、くわしくみていきます。 ※本記事は瀬木比呂志『現代日本人の法意識』より抜粋・編集したものです。
事実婚に関する法意識
「事実婚」は、法的には、「法律婚すなわち民法上の婚姻によって成立する夫婦関係」ではない「事実上のカップルの関係」をいう。 もっとも、近年は、単に同棲しているだけではなく、地方自治体に「世帯合併届」を提出して世帯を一つにし、住民票に、いずれかが世帯主、他方が「妻(未届)」あるいは「夫(未届)」と記載されるようになったカップルの関係を指す言葉として使われているようだ。これにより、保険、年金等の関係で法律婚の夫婦と同等に扱ってもらえる効果がある。しかし、本書では、法的な側面を重視し、事実婚を、「法律婚ではない事実上のカップルの関係」全般を広く示す言葉として用いる。 さて、事実婚に関する日本人の法意識は、どのようなものだろうか。 これについては、もう20年以上前のことになるが、こんな経験があった。 普段はほとんど見ないテレビを、休憩時にたまたまついていたので漫然と見ていた。大学生たちが、さまざまな議論をしていた。そのうち、事実婚と法律婚の選択というテーマになったときに、それまで常に筋道立ててしゃべっていた、賢そうな女子学生が、「あなただったら学生で事実婚しますか?」と問われて、「やっぱり同棲だと親が悲しむから、籍は入れたいと思います」と答えたのである。そこで、私は、「うーん、親が悲しんじゃうから、籍は入れるのかあ。そうかあ」とちょっとショックを受けた(女性法律家であれば、さらに大きなショックを受けたかもしれない)。その学生の一般的な思想や人格のでき方と、同棲はやっぱり……という発言部分には、非常に大きな落差があったからである。一般的に近代・現代の国際標準からは離れた部分の目立つ日本人の法意識の中でも、家族法関係のそれは、ずれ、溝が非常に大きいのだ。 もっとも、今では、事実婚は、結婚前の、うまくゆくかどうかのお試し期間といったかたちをも含め、かつてに比べれば合理的かつドライに利用されるようになってきた。 とはいえ、事実婚の統計的な割合は、今でも、欧米よりはるかに低い。さらに、生まれてくる子に占める婚外子(法律婚カップルでないカップルから生まれた子、非嫡出子)の割合についてみると、日本は、約2パーセントと突出して低い。ちなみに、フランスが6割弱、スウェーデン、デンマークが5割台、イギリスが5割弱、アメリカが4割弱、ドイツが3割台である(2016年)。 欧米に婚外子が多い理由としては、(1) 事実婚に対する社会的差別意識がなくなったこと、(2) 子を産み、育てやすい制度、また子を保護する制度が相対的に整っていることのほか、(3) 「登録パートナーシップ制度」のような婚姻類似の地位を当事者に与える制度が1990年ころから作られるようになったこと、も挙げられよう。 登録パートナーシップ制度は、婚姻外カップル(事実婚のカップル)の権利保護のために国家が創設するものだが、法律婚ではない。法律婚よりも簡便で、解消についてもより容易な例も多い(たとえばフランスのパクスは一方当事者の意思により解消可能)が、法的な保護は法律婚とほぼ同等である。子はとりあえずは婚外子となるが、父親が認知すれば、相続を含め、嫡出子(法律婚カップルから生まれた子)と同等の法的地位が保障される。法律婚に準じる選択肢として、きわめて合理的なものといえよう。 対象は同性カップルとする国がより多いものの、フランスのパクスのように同性・異性の双方を対象とする国もある。パクスの場合、立法の主目的は同性カップルの保護だったが、実際の利用数は異性カップルのほうがずっと大きく、婚姻に準じる使いやすい制度、もう一つの選択肢として定着しているという。 フランスでは1980年代に出生率がかなり低下したが、その後大きく出生率が回復し、一時は2.0の大台を超えた。これについては、子育て支援策の充実強化の影響が大きいものの、1999年のパクス創設もその一因であろうといわれている。
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