”年間最高試合”級の名勝負 内山高志のV8を生んだ準備力
■敗者・金子「まだまだガキだった」 内山を一瞬でも追いつめた敗者は控え室で静かに語った。 「あっという間の12ラウンドだった。意識してトレーニングをしてきたこと、やりたいことはやれた。倒した場面は、ここが勝負だ!と思ったけれど、つめきれなかったことが悔しい。内山さんは、上下の動きが早く、距離を作るのが上手かった」 ――何発もパンチを受けていた。それでも倒れなかったのは? 「世界を取ることだけを目標にしていた。攻めるしかなかった。でも、内山さんのパンチにはキレがあった。ダメージはありました。それが蓄積していました」 ――この試合で何を得ましたか? 「勝てなかったということは、まだまだ強くなれるということ、もっと自分に厳しく練習をすれば、もっとうまくなれる。内山さんに比べるとまだまだガキみたいなもんです」 連続KO防衛を続けていた世界チャンピオンからダウンを奪い、そのKO記録をストップさせた金子のコメントは、どこか、すがすがしかった。 ■内山「金子ともう一度戦いたい」 34歳の世界チャンピオンは、その拳で25歳の未来あるボクサーに大切な何かを伝えたのだと思う。「3年後が楽しみなボクサー。僕が、その時もまだチャンピオンでいたなら、ぜひもう一度やりたい」と話した内山には、この先、セミファイナルでKO防衛したWBC世界同級王者の三浦隆司(帝拳)との団体統一戦の夢カードがある。 「前回は僕が勝ったと言ってもギリギリの勝負だった。成長した三浦選手と対戦するのは楽しみ」。生真面目な王者は、そう答えたが、隣に座っている渡辺会長は、「今日は、これだけいい試合を見た余韻に浸っていたい」と、珍しくいい事を言った。 私も同感である。 2013年の最後の最後に、THE BOXINGとも呼ぶべき本物を見せてもらった余韻に浸りながら除夜の鐘を聞きたいと思った。 (文責・本郷陽一/論スポ、アスリートジャーナル)