”年間最高試合”級の名勝負 内山高志のV8を生んだ準備力
名勝負を生み出したのは、フィジカルの優位さを生かしながら、打たれても打たれても前進を止めなかった金子のスタイルにある。 ■金子の作戦を読んでいた内山 しかし、内山も、またその作戦を読んでいた。 「根性でしょう。何が何でも世界を取るという気迫で前進を止めないことはわかっていた。左は顎にもテンプルにも当たったけれど……右をジャストミートできなかったから。ただ左の差し合いで地味にポイントを重ねていったのが良かった」 ジャブとフック。タイミングが合わないように左のブローに多彩なアクセントをつけながら左右に動き、金子の射程圏内に入らないポジションを正確にキープしていく。左を軸にしながらも、時折、狙いすました右ストレート。金子が、至近距離に入ってくると動きながら、小さくスピーディーなパンチをまとめる。 老練なテクニックとインサイドワークで的を絞らせない。実は、バッティングを嫌う内山は、頭を下げ突進してくるタイプのボクサーを苦手としている。突っ込んでくるような頭を嫌がり、スウェーをしながら真っ直ぐに下がったそこにロープを背負い、10ラウンドに金子の痛恨の一撃を浴びることになったのである。 ■予め鍛えていた首から肩への筋肉 しかし、内山は、そのパンチ力と突進力をも警戒していたという。土居進トレーナーの下で行っているフィジカルトレーニングでは、僧帽筋と呼ばれる、首から肩にかけての筋肉を今回、始めて鍛えた。 「内山さんは、数パーセントかもしれないが、倒されるようなダメージのあるパンチを受ける可能性があると準備していたのかもしれません。僧帽筋を鍛えると脳へのダメージを軽減できますから」とは土居トレーナー。ダウンのダメージをそれほど受けず、すぐに回復して若き挑戦者に逆転を許さなかったのは内山の細心の準備にあったのかもしれない。 加えて内山は、右の拳に不安を抱えていた。今回、7か月も試合間隔が空いた理由のひとつが、その拳の故障。スパーリングでは再発が怖くて、一度も思い切り右を打つことができなかったほどだったという。それでも強靭なメンタルと、吐くほど苦しいフィジカルトレーニングで、その不安も乗り越えてきた。