”年間最高試合”級の名勝負 内山高志のV8を生んだ準備力
観客が総立ちになった。 大樹と叫ぶ声。内山と叫ぶ声。怒号とも歓声とも取れる大歓声が大田区総合体育館の天井に跳ね返った。 [写真・記事]世界王者・内山が後輩に授ける秘策
10ラウンド。 ここまで圧倒的にポイントをリードしていた内山がロープを背負った時、金子の人生をかけて振り回した右フックが飛んできた。内山は横に崩れるようにしてダウンした。 「カウント8で起きると(パンチが)効いたように思われるのも嫌だったのでカウント7で立った。セコンドからの残り時間を示す声も聞こえていたし冷静だった) ■内山「またミスしちゃった」 内山の回想。 逆転KOを狙って金子がラッシュをかけたが内山が迎え撃つ。最大の危機をゴングに救われると内山はコーナーで笑っていた。 「またミスしちゃったなと」 続く11ラウンドに入って金子は一気に勝負をかけてきたが、そこに内山のえぐるような左フック。気迫に満ちた挑戦者の前進を許さない。逆にふらっとさせた。ダウンのダメージを考えれば、クリンチで逃げて、3分間を過ごしても当然の戦略だったかもしれないが、内山は、逃げるという選択はしなかった。7度防衛をして、日本のボクシング界を引っ張ってきた“リアルチャンピオン”のプライドである。 ■”年間最高試合”級の名勝負 最終ラウンドを前に内山は「倒せるんじゃないか」と思っていたという。残り10秒の拍子がなってから、右ストレートが金子のあごをポーンと上げさせたが、時間切れ。私の周囲にいた人たちは、口々に「年間最高試合だ」、「こんな試合久しぶりに見た」、「心臓が止まりそうだった」と興奮気味に語りあっていた。魂と魂がぶつかり合う音がリングサイドまで聞こえてくるような試合だった。 判定を待つ間、金子は「負けていると思った」という。 金子の右目の上には1センチほどの小さな傷。左目は腫れ上がって塞がりかけている。対してダウンを喫したものの内山は綺麗な顔をしている。それだけで、どちらが勝者か敗者かがわかる。日本人ジャッジは3者共に117-110の採点。 V8に成功した内山は、金子を称えてリング上で、こう語りかけた。 「強かったな。効いたよ」