犯罪報酬のビットコイン、判決で没収…組織犯罪処罰法の改正で暗号資産も対象に
SNSで誘われて運転免許証の偽造を繰り返した被告に対し、東京地裁が昨年10月、組織犯罪処罰法に基づき、報酬として受け取った暗号資産を没収する判決を言い渡し、確定していたことがわかった。暗号資産を没収対象とした同法改正後、没収を命じる司法判断が明らかになるのは初めてとみられ、暗号資産の悪用防止が期待される。(糸魚川千尋) 【グラフ】暗号資産の利用者口座数の推移
報酬にビットコイン
被告の男(31)は、ツイッター(現X)で知り合った人物に誘われ、2022年8月~23年1月に運転免許証11通を偽造したなどとして、有印公文書偽造などの罪で起訴された。
関係者への取材や検察側の冒頭陳述などによると、男は、この人物から偽の運転免許証の画像データを受領。プリンターで刷りだしてプラスチックカードに貼り、偽造免許証を作成していた。男は指定場所に発送し、報酬として暗号資産「ビットコイン」(BTC)を受け取っていたという。
偽造免許証で開設された銀行口座は詐欺事件の振込先などに使われていたとされ、東京地裁は昨年10月11日の判決で、男を「組織的な犯罪グループの末端だった」と認定。懲役3年、執行猶予5年(求刑・懲役4年)の有罪とし、約0・03BTC(判決時点で約30万円相当)の没収を命じた。
資金源断つ
組織犯罪処罰法は犯行グループが犯罪で得た収益を没収する手続きを定めている。22年12月に改正される前は、没収の対象を「不動産」や現金などの「動産」などと規定。暗号資産を没収できるかどうかの解釈は定まっておらず、司法判断が分かれたケースもあった。
犯罪被害者の支援に取り組む弁護士らから「被害回復のためには没収の範囲を拡大すべきだ」との声が上がり、改正法では暗号資産も没収の対象となることが明確化された。ある捜査関係者は「報酬を暗号資産で受け取るだけではなく、最近は犯罪収益を匿名性の高い暗号資産に交換するケースが増えている」とした上で、「法律や判決で犯罪収益の暗号資産は没収されると示されたことで、犯罪グループの資金源を断つことにつながる」と強調する。
◆暗号資産=インターネット上で取引される「仮想のお金」で、2019年の資金決済法改正で「仮想通貨」から呼び名が変わった。代表格はBTCや「NEM(ネム)」で、数万種類あるとされる。円やドルといった法定通貨と違って価値の裏付けがなく価格は乱高下しやすい。トラブルも多く、日本では14年に当時世界最大規模の取引所だった「マウントゴックス」で巨額のBTC消失が判明した。