J1湘南・鈴木雄斗が「自己流株式投資」にたどり着いた経緯
アスリートでありながら、投資家としての意識を持つ「アスリート投資家」たちに、自らの資産管理や投資経験を語ってもらう連載「 アスリート投資家の流儀 」。水戸ホーリーホックを皮切りに、モンテディオ山形、川崎フロンターレ、ガンバ大阪、松本山雅、ジュビロ磐田と全国各地のJクラブを渡り歩き、今季から湘南ベルマーレでプレーする30歳の右ウイングバック・鈴木雄斗選手の2回目です。 2012年に加入した水戸で4年、山形で2年を過ごし、プロ7年目にようやく国内最高峰リーグ行きをつかんだ鈴木選手。それも当時、圧倒的な強さを誇った川崎ということで、周囲のレベルやサッカースタイル、プレー環境や待遇に至るまで、あらゆる環境が変化したといいます。 お金と真剣に向き合い始めたのもその頃。20代後半に差しかかり、「経済的基盤がしっかりしていれば、引退後もやりたいことをやれる」という思いから、投資の勉強をスタートさせたのです。最初は不動産投資に関心を持ったといいますが、そこから鈴木選手はどのようなアクションを起こしたのでしょうか。 ■株式投資のスタートは米国株から ――鈴木選手が最初に手がけた投資は何だったのですか。 鈴木:不動産投資をしようと思ったんですが、どうしても怖さがあって、手を出せなかったんです。そうこうしているうちに2019年夏になり、ガンバ大阪へレンタル移籍し、2020年には当時J2の松本山雅へ行くことになりました。 その矢先に新型コロナウイルスの感染拡大が起こり、リーグ戦が1試合終わったところで中断期間に入ってしまった。6月末まで約4カ月も試合がなくなり、練習ができない時期もあって、急に時間がポッカリと空きました。 そこでトライしたのがビットコイン(BTC)。知り合いから情報をもらって、1BTC=50万円のときに3BTC購入したのが始まりです。100万円に跳ね上がったタイミングで売却して、いきなり利益が出ましたね。 それで味をしめて、元手の150万円は残して、税引き後利益の100万円くらいを再投資したんですけど、すぐに吹っ飛びました(苦笑)。妻には「利益が出た分なのでなくなってもいい」とは言っていたので、まあよかったですが……。 ――それ以外の投資は? 鈴木:株に目をつけました。株式投資を始める前に楽天証券とSBI証券で口座を開設し、どちらでも取引できるようにしました。最初に買ったのは米国株です。アマゾン・ドットコム( AMZN )、エヌビディア( NVDA )、ウォルト・ディスニー( DIS )、ビザ( V )、インドの銀行など、少しずつ買って利益を出すという形でした。 当時はコロナ禍で午前練習がなかったので、アメリカ市場の開く夜11時頃からケータイやパソコンを見るようになっていました。チームメートに株をやっている人がいたので、情報交換しながら、「この銘柄がいい」と聞くと、ゲーム感覚で買い付ける感じでしたね。正直、株に気が行っていた自分は嫌な感じはありましたけど(苦笑)。 ■ZOOMを買い増ししたら大損に ――成果のほうがいかがでしたか。 鈴木:最初に買った米国株は600万円くらいの損失を出したのかな。それ以外にも結構失敗はしています。 一例を挙げるとズーム・ビデオ・コミュニケーションズ( ZM )。リモートのミーティングとかでみんなが使うようになって、爆上がりしていたので、「今から買っても遅いかな」と思いつつ、100万円くらい買い付けたんです。 その後、株価が倍以上になって、「これはイケる」と思いました。直後の決算がすごくよかったので、さらに追加で300万円を買い増ししたら、そこから一気に株価が下がってしまった。損切りしましたけど、調子にのってやったらダメだなと痛感しましたね。 ――それ以外の失敗談はありますか。 鈴木:新型コロナワクチンを開発していたファイザー( PFE )、モデルナ( MRNA )、ノババックス( NVAX )などへの投資ですね。あの当時はかなり重要性が高まっていて、脚光を浴びていたので、高値になると思って買いましたが、結局は300万円くらいは損失を出したと記憶しています。 その頃の自分はまだ初心者。やっぱり勉強が足りない分、失敗が多かったのかなと思いますね。 ――同じサッカー選手の 鄭大世さん (現解説者)や湘南の先輩・ 山田直輝選手 はコロナ禍にYouTubeや投資本などで勉強したという話をしていましたが、鈴木選手はどのように情報収集をしていたんですか。 鈴木:一番頼りにしていたのはX(旧Twitter)ですね。投資家の投稿を見て、共感できる人をフォローして、「この人のマネをしよう」と実践していました。note(5243)の記事を参考にして、買ったこともあります。 2020年の段階では、やっぱりギャンブル要素が強かったのかなと。投資は余剰資金でやるものだと考えていたし、「当たればいいやという感覚」が強かったですね。だから、生活に支障のないレベルでやるようには心がけていたつもりですけど、気づけば金融資産の半分くらいを投じていた時期もあったと思います(苦笑)。 ■ついにたどり着いた"鈴木流投資"の理想型 ――その他の資産形成は? 鈴木:サッカー選手がよくやっているドル建て生命保険の積み立ては早い段階から始めていましたし、地道な投資信託も買っていました。それ以外は高級時計ですね。ロレックスとか高価な時計は自分で身に着けられるという楽しみがありますよね。複数持っていれば「今日はこの時計にしよう」と気分やファッションに合わせて変えられますし、イザというときには売ることもできます。今は高級時計の価格が跳ね上がっていますし、そこに目を付けたのはよかったかなと思います。 ――コロナ禍が最も深刻だった2020年が終わり、鈴木選手は松本山雅から当時J2の磐田に完全移籍します。同年には日本代表最多出場の152試合という記録を持つ遠藤保仁選手(現ガンバ大阪トップコーチ)も移籍してきて、サッカー選手としても充実した時間を過ごすことができたと思いますが、投資のほうはどんな変化がありましたか。 鈴木:ジュビロに行ってすぐの頃、いろいろ本を読んでいて「高配当投資」というのが目に留まったんです。その後に発売された配当太郎さんの『年間100万円の配当金が入ってくる最高の株式投資』を読んで、その考えが確信に変わりました。 配当を重視して株を買えば、仮に暴落が起きても精神的に余裕を持てますし、「これから何を仕込もうか」と楽しく考えられる。本当に僕にとっては「待ってました」と思える投資法だったんです。 それでいろいろ銘柄を考えて、米国株なども見てみたんですが、どうも身近でないので会社のことがわからない。業績がよくなるのか、将来性があるのかといったことが見通せなかった。でも日本株なら、企業をある程度は知っていますし、情報も収集しやすい。 三菱UFJファイナンシャル・グループ(8306)、NTT(9432)、KDDI(9433)、ソフトバンクグループ(9984)といった会社なら、業績や配当推移、バリュエーションを見て、自分自身、納得できると思いました。そこから本格的にそちらのほうに入り込んでいった感じです。 試合や練習、遠征に明け暮れていたプロ生活の中で、予期せず生まれたコロナ禍の空白期間を有効活用し、セカンドキャリアの資産形成を視野に入れて株式投資を始めた鈴木選手。さまざまなトライ&エラーを経て、ついに高配当投資という理想形にたどり着きました。そこから彼がどのような取り組みをしてきたのか。そこを3回目で深掘りします。 元川 悦子(もとかわ・えつこ)/サッカージャーナリスト。1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、1994年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。著書に『U-22』(小学館)、『初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅』『「いじらない」育て方 親とコーチが語る遠藤保仁』(ともにNHK出版)、『黄金世代』(スキージャーナル)、『僕らがサッカーボーイズだった頃』シリーズ(カンゼン)ほか。 ※当記事は、証券投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。
元川 悦子