アトツギ甲子園、2025年度も開催へ 補助金だけでない中小企業の事業開発支援
「事業化は悔しさという燃料があったから」
和歌山県御坊市の創業112年の仏壇店「お仏壇の阪本」4代目の阪本琢磨さんは2022年12月、第3回アトツギ甲子園に「自分の心と時間をとりもどす お香を通じてマインドフルネスをあなたへ」というタイトルで、マインドフルネス(瞑想)のためのお香を販売するプランを提案しました。 しかし、競合分析や商品自体の甘さを指摘され、書類選考で落選しました。 それでも、あきらめきれなかった阪本さんは落選から9日後の2023年1月28日、商工会議所青年部和歌山県連主催のピッチコンテストにブラッシュアップした内容で出場し優勝。 のちに睡眠のためのお香に方向転換し、2025年1月12日までMakuakeで応援購入プロジェクトを立ち上げています。低価格帯の商品にも関わらず100万円を超える応援が集まっています。 熱量と睡眠時間を使い、作り上げた資料があっさりとアトツギ甲子園の書類審査で落とされるという現実に直面した阪本さんは唇を噛み締めながら、他のエントリー者たちが勝ち進む様子をSNSで追いかけていたといいます。 「事業化にこぎつけることができたのは、悔しさという燃料があったからです」
事業を伸ばす過去のエントリー者たち
このほかにも、多くのエントリー者が事業プランを成長させています。 サブカル造形の救世主!伸びる塗料の「ウレヒーロー」をテーマに、第2回アトツギ甲子園で優秀賞に選ばれた斎藤塗料(大阪市)5代目の菅彰浩さん。 SNSを駆使して、ゴムなどに塗装しても柔らかさが維持されるという柔軟性・伸縮性に特化したウレヒーローをアピールすると、BtoC向けのフィギュア塗装の用途で注目され、2022年度の売上高は2400万円超という成果につながりました。 徐々にスポーツ関連商品などBtoBの工業用途に広がっており、2023年度にBtoCの売上高を上回りました。2024年度は月平均で2022年度から2倍近くまで伸ばしています。 第3回アトツギ甲子園エントリーしたノムラ化成(埼玉県)の野村亮太さんは、社内の業務カイゼンで培ったDXのノウハウを外部に提供するというテーマで、書類選考を通過。地方大会まで進出しました。この間、実績を作ろうと動いたことがその後の事業展開に役立っています。 タイでDX支援のための新法人を立ち上げ、Google Workspaceの導入・教育支援を手がける「ストリートスマート」のタイ法人に参画。その結果、Google APAC本部メンバーとつながりも生まれ、野村さんは「Googleに一番近いところで最新の考え方に触れる機会が得られています」と話しています。 売上も利益もまだ小さいものの成果は出ているといいます。さらにノムラ化成のタイ法人で、社内アプリ開発者が育成できたり、本社でも若い社員が応募してきてくれたりするようになるといった効果も出ています。 第4回アトツギ甲子園準ファイナリストに選ばれた「ボイスクリエーションシュクル」(さいたま市)の佐藤直さんは、呼吸法や発声法、表情筋を鍛える運動などを組み合わせた独自のトレーニング法「声磨き」を生かして、プロスポーツクラブやホームタウンの自治体と連携して「声×スポーツ」で地域活性化に取り組んでいます。 スポーツ庁の実証事業として2年連続で採択されたり、運用しているコミュニティ参加者数が1年で20倍に増えたりと、社内外から「声」の重要性が少しずつ認められているといいます。この1、2年で全国で横展開できるモデルとしての手応えを得たとして「2025年は自社の新たな事業柱として成長できるようさらに加速していきます」と話しています。