「このまま経営続けられるか不安」“南海トラフ臨時情報”から1カ月 専門家「検証や見直し必要」
日向灘を震源に宮崎県で最大震度6弱を観測した地震を受けて「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表されてから8日で1カ月。政府は「備えを再確認した上で日常生活の継続を」と呼びかけたが、宿泊施設のキャンセルは相次ぎ、自治体や住民は対応が分からず苦慮した。今後、この困惑は解消されるのか。専門家は臨時情報の周知の在り方に見直しが必要だと指摘する。 【写真】防災アプリから届いた「巨大地震注意」の誤通知 「本当に大変ですよ。9月下旬の3連休まで書き入れ時だったのに…」。宮崎市の旅館「地蔵庵」の川越清文会長は声を落とした。8月8日夜の臨時情報の発表後、8~10月分の予約のキャンセルが相次ぎ、損失は200万円超に上ったという。「このまま経営が続けられるか不安。また同じことが起きたら一体どうなるのか」 臨時情報の発表は2019年の運用開始以来、初めてだった。高齢者約90人が入居する宮崎県日南市のある特別養護老人ホームの職員は「臨時情報の知識はなかった」といい、ニュースで情報を得て避難経路を確認し、備蓄の水を買い足した。「何も起きなかったので安心したが、対応が正しかったのか今でも分からない」と戸惑いを隠せない。 臨時情報でも、巨大地震発生の可能性がさらに高い「巨大地震警戒」では要配慮者や時間がかかる地域の住民に避難が求められるが、今回発表された「巨大地震注意」で呼びかけられたのは「日頃からの備えの再確認」「必要に応じた自主避難」だった。 分かりにくい内容に自治体は対応に苦慮した。 宮崎市は専門家の意見を踏まえて海水浴場での遊泳を禁止し、3日後に再開。南海トラフ地震で34・4メートルの津波が想定される高知県黒潮町は「高齢者等避難」を発表し、花火大会などを中止した。 政府の注意呼びかけが終了したのは1週間後。ストレスによる住民の健康や経済活動への影響を考慮して決めた期間だった。この間に24時間体制で待機してきた大分市の職員は「地震がいつ起きてもおかしくない状態は変わらない。この期間だけ体制を強化した意味があったのか」と疑問を呈した。和歌山県の岸本周平知事は会見で「緊張感を持って受け止めたが、用心しすぎた」と振り返った。 関西大の林能成教授(地震防災)は「政府は『大規模地震が起きるかもしれないし起きないかもしれない』という不確実性を丁寧に説明すべきで、自治体も分からないとの声を上げるべきだ。臨時情報の周知の在り方や呼びかけの内容などを検証し、見直す必要がある」と指摘する。 気象庁によると、日向灘周辺の地震活動は減少傾向にあるものの、8月8日以前よりは活発な状態が続いている。名古屋大地震火山研究センターの田所敬一准教授(地震学)は「南海トラフではプレートの境界に力がかかり続けている状態で、同規模の地震が増えるとみられる」と危惧し、「今回は何も起きずに幸運だったと考え、家庭での防災対策を見直してほしい」と訴えた。 (坪井映里香)