能登への思い「山笠」に載せ博多を駆ける…消防団員の犠牲知り「町火消し」題材に、災禍払う願い込め
780年以上続くとされる福岡市の夏の風物詩・博多祇園山笠が始まった。参加者たちは、復興への願いや伝統、仲間に対する思いを山笠に載せ、まちを疾走する。山笠と共に走り抜ける人たちを紹介する。 【写真】博多祇園山笠が開幕し、お目見えした飾り山笠
日常取り戻してほしいと「まとい」取り付け
小雨が降る6月26日午前。福岡市博多区の中洲中央通りでは、中洲流の男たちが、山笠台を担いで走り抜けた。台上に人形はなく、この日は、舁き棒が固定されているかを確認する「試し舁き」。総務の西村守也さん(61)は台上に陣取り、舁き手と一緒に「オイサッ、オイサッ」と声を出しながら、両手を振って鼓舞した。
同流の今年の舁き山笠は、幕末に江戸町火消しとして活躍した新門辰五郎を題材とする。30年以上消防団に所属する西村さんが1月、流の責任者である総務に就任して提案した。
山笠の人形は伝統的に、武者物が多い。ただ、西村さんは「戦乱が落ち着いた江戸時代、勇猛果敢に火の中に飛び込む火消しは、武者と同じ英雄的な存在」として長年火消しを題材とする計画を温め、昨年から山笠に関する文献を読みあさった。200年前に遡っても火消しの題材は見つけられず、最終的に、山笠で忌避されるものではないことを櫛田神社宮司に確認した。
今年の元日に能登半島地震が発生したことで、西村さんは決意を固めた。地震では多くの人が亡くなり、消防団員も犠牲になった。西村さんもテレビで火災の映像を見ながら、そこで活動する消防団員の安否を気遣った。
西村さんは現在、最前線には立たない。それでも機能別消防団員として、動線確保やホースの延長など後方支援に取り組む。災害現場を知るだけに、「(消防団は)他者のためという思いを持っており、災害があれば真っ先に駆けつける。舁き山笠を通じ、そんな消防団員がいることを知ってもらいたい」と力を込める。
江戸時代の火消しの旗印「まとい」は、世の災いを振り払うという。「災禍を払い、被災者には、落ち着いた日常を取り戻してほしい」と願いを込め、舁き山笠にはまといを取り付ける。