夜間頻尿と痛みに苦しむがん患者…訪問看護師が取った手は?【老親・家族 在宅での看取り方】
【老親・家族 在宅での看取り方】#117 ある朝、訪問看護師さんから電話がありました。その看護師さんが担当している患者さんは、つい先日「夜間頻尿がある」との訴えから、高濃度の栄養輸液剤(エルネオパ)投与量を1時間あたり40~45ミリリットルから、30ミリリットルに減らした方でした。 末期がん90代女性「一人娘とは絶縁状態で会うこともできない…」 「訪問しましたら、『明日、朝から孫と出かけたい』と言われまして。そうなると外出中は点滴を止めることになるわけですが、その分、今日は以前の投与量の40ミリリットルに戻した方がいいでしょうか?」 私は、口から水分が補給できるのであれば30ミリリットルで構わない旨をお伝えしました。 在宅医療において訪問看護師さんは、患者さんやご家族と、私たちをつなぐ大変頼りになるパートナーです。病気の治療が最大の目的である病院に比べ、在宅医療では患者さんやご家族の意思や生活を尊重しながら、自己決定や自立をサポートすることが求められています。そのため訪問看護師さんは、患者さんからのさまざまな要望を聞き取り、現状と照らし合わせながら工夫し、私たち医療スタッフ側としっかり連携を取ってくれているのです。 冒頭の患者さんのような突然の外出といった場合、自宅での療養を基本とする医療においては、より柔軟な対応が求められます。 ちなみにこの患者さんは乳がん末期の70代女性で、一軒家に息子さん家族と同居しています。寝室と水回りは1階で、食事の時には息子さん夫婦と過ごすために2階へ移動しています。いまのところ自立歩行はできるものの、最近は息切れがして難しくなり、食欲もなくなってきました。疼痛コントロールのために麻薬を使用しており、その麻薬の使用と頻尿による断眠が重なり、日中でもウトウトしてしまう時間が増えがちでした。 「痛み止めは使いましたか?」(私) 「はい。夜中の3時に使いました」(患者) 「どこが痛いですか?」(私) 「背中で。前にコブがあったところ」(患者) 「がんの痛みかもしれないですね。痛み止めのテープの量を増やしましょう」(私) 以前ならこのように、尿意で夜中に目が覚め、痛みを新たにしていた患者さんでしたが、点滴の量を工夫することで解決。これらは全て訪問看護師さんの丁寧な観察によって得られたことで患者さんの生活の質(QOL)を向上させた訪問看護師さんには改めて感心させられたのでした。 「外出はできましたか?」(私) 「はい! 息子夫婦と孫と水族館に行って。本当に楽しかった」(患者) 「よかったですね」(私) 後日の診察では患者さんから開口一番、外出した時の話が飛び出したのでした。その時のパッと明るくなった患者さんの表情はイキイキとしていました。 (下山祐人/あけぼの診療所院長)