“超攻撃的”な藤枝はなぜ初のJ2で躍進できたのか。転機となった熊本戦。須藤監督の決断「『リアリスト』にならないといけない」
「一番の問題点は失点の多さですね」
「8戦未勝利になった9月3日の栃木SC戦を受けて、僕は『リアリスト』にならないといけないと思った。それまでは『リアル』と『ロマン』を両にらみにして、バランスを取りながらやってきましたけど、熊本には絶対にスタイルを変えないと。 だったら自分が舵を切らないといけないと決断した。ハイプレスの位置を少し下げ、ミドルゾーンで守りつつ、行ける時はハイプレスに行くという現実的な戦い方にシフトしたんです。 それが奏功して、相手や時間帯によって上手く戦うということができるようになった。そういう意味で、熊本戦は今季のターニングポイントになりました。シーズン当初から目ざしていたハイプレスと超攻撃的なスタイルに、柔軟性や臨機応変さが加わった。 だからこそ清水にも勝てたし、ザスパクサツ群馬にも5-1で圧倒できた。町田とヴェルディには勝てませんでしたけど、前期に大敗を喫していた彼らに引き分けに持ち込めましたし、終盤になって成長の実感を持てましたね」と、最終的に12位でフィニッシュした須藤監督は安堵感をのぞかせた。 今季を1年間、戦い抜いてみて、藤枝にはJ1昇格プレーオフ圏内に入るだけのポテンシャルがあると指揮官は率直に感じたという。青森山田高で勝ち続けてきた黒田剛監督の就任によって町田が隙のないチームに変貌を遂げ、史上初のJ1昇格を果たしたように、藤枝もミスの少ない手堅さも併せ持った集団になれれば、本当に最高峰リーグも見えてくるのではないだろうか。 「我々の一番の問題点は、失点の多さですね。今季は72失点でリーグワースト。総得点が61だったのは前向きに評価していいと思いますけど、こんなに失点していたら上位には行けない。 あまりにも守備意識を持ちすぎると、僕らの超攻撃的サッカーの迫力がなくなってしまう恐れもあるので、それを活かしつつ、フィニッシュの精度やクオリティを上げて、なおかつ前から行く守備の質を高めていければ、目標は必ず達成できるはず。僕はそう信じています」 須藤監督は野心を強く押し出した。常にギラギラ感を前面に出せるのが彼の最大の魅力だ。「僕は大きな夢を掲げていないと、絶対に実現しないと思っています。だからこそ、自分は日本代表監督を目ざしますと言いたい。ここからが本当の勝負ですよ」と不敵な笑みを浮かべていた。 こういう鼻息の荒い指揮官が日本にもっと数多くいてもいい。選手としてトップクラスの実績を持たないリバプールのユルゲン・クロップ監督、バイエルンのトーマス・トゥヘル監督のように、須藤監督にも持ち前のパッションで藤枝をさらに強く、魅力的なチームに変貌させ、自身も成り上がってほしいものである。 ※このシリーズ了(全3回) 取材・文●元川悦子(フリーライター)