Wメダル&トリプル入賞 日本の男子50km競歩はなぜ強いのか
ロンドン世界選手権の最終日。バッキンガム宮殿前付近の周回コースで行われた男子50km競歩は日本勢が圧巻のパフォーマンスを発揮する。荒井広宙(自衛隊体育学校)が3時間41分17秒で銀メダル、小林快(ビックカメラ)が2秒差の3時間41分19秒で続き、銅メダルを獲得した。日本勢はこの種目で2大会連続の表彰台となり、初のWメダル。丸尾知司(愛知製鋼)も3時間43分3秒で5位に入り、トリプル入賞を果たしたのだ。 男女競歩は男子100m、同200m、同4×100mリレーとともに日本陸連から「ゴールドターゲット」に設定されている。そのなかでも50km競歩は日本陸上界にとって金メダルの夢が見られる数少ない種目のひとつ。一昨年の北京世界選手権で谷井孝行(自衛隊体育学校)が銅メダル、昨年のリオ五輪では荒井が銅メダルを獲得しており、世界大会では3大会連続のメダルになっているからだ。 なぜ日本の男子50km競歩は強いのか? 今回のレースでも日本勢の強さの秘密がいたるところに散りばめられていたと思う。ヨアン・ディニズ(フランス)が序盤から抜け出すも、日本人ウォーカーは無理に反応することはなかった。なぜならディニズは、3時間32分33秒の世界記録を保持する一方で、途中で止まるなど、不確定要素のある選手だからだ。「記録が違いすぎるので、無理に追いかけても、つぶれてしまう」と荒井は冷静に対応して、小林とともに2位グループでレースを進めた。 今回のディニズは絶好調で、30kmの通過で後続に3分18秒というリードを奪う。そして、そのまま独走でレースを完結。3時間33分12秒の大会新で圧勝した。今回、日本勢の3人はあらかじめ目標タイムを定めたなかで、試合の流れを意識しながらレースを展開していた。競歩の今村文男強化コーチは、「集団のなかで戦うのではなく、自分のペースを追いながら、レース展開を考える感じでスタートさせました」と話す。 メダルを狙っていた荒井(自己ベスト/3時間40分20)は3時間38分~40分、50km競歩2回目の小林(自己ベスト/3時間42分08秒)は3時間40~42分、入賞を目標にしていた丸尾(自己ベスト/3時間49分17秒)は3時間45分をターゲットにしていたという。だからこそ、そこから大きく外れたペースに反応することはなかったのだ。 荒井と小林は2位グループのなかで、丸尾は集団から遅れるかたちになったが、それも当初の予定通り。今村コーチは、「気象条件にもよるんですけど、目標ペースは想定される心拍数も参考にしているので、最後まで崩れることは少ないです」と選手たちのペースメイクには自信を持っている。日本の競歩勢は練習時から心拍計ウォッチを使用しており、そのデータなどを蓄積。試合時でも実際のペースだけでなく、自らの心拍数を確認して、無理のないレースを心がけているのだ。 2位集団にいた荒井と小林は、38km過ぎに集団から抜け出すと、ふたりで2・3位争いを繰り広げた。キャリアのある荒井が引っ張るかたちで、小林が背後につく。荒井が小林に給水を手渡すなど、協力する場面もあった。荒井は、「日本人同士でバチバチやるのも嫌でしたし、僕がペースメーカーになって、彼のポテンシャルを最大限に引き出せればいいなと思いました」と後輩をアシスト。ジャパンのチーム力で後続を寄せ付けなかった。