戦時中に持ち主と離れた楽器が語る歴史と記憶 藤倉大作曲の音楽朗読劇『借りた風景』上演
第二次世界大戦中、戦渦に巻き込まれ持ち主と離れた楽器がありました。この史実を土台に、今を生きる3人の架空の音楽家の視点を通じて、楽器が歩んできた歴史とその記憶が語られる――。作曲家・藤倉大と、ドイツの脚本家ユニット“tauchgold(タウフゴルト)”による共同作品『音楽朗読劇「借りた風景」~明子さんの被爆ピアノ、その記憶とともに~』が、2025年2月16日(日)に広島・広島女学院中学高等学校 ゲーンスホールで上演されます。2022年6月にドイツの公共ラジオ放送で初演された際の予告動画が公開中です(日本公演は日本語での上演)。 ブダペストの地下室に何年も閉じ込められていたヴァイオリンの名器ストラディヴァリウス。1939年、ポーランドからイスラエルの地に逃れる際に置き去りにされたコントラバス。広島の原爆で若い持ち主を失い、沈黙したピアノ(「明子さんのピアノ」)。21世紀初頭、これらの楽器は再発見され、新たな音楽的な命が吹き込まれました。この音楽朗読劇では、楽器の史実を土台に、虚構と現実が混在しながら、戦争と平和、避難と追放、そして人びとに美と相互理解をもたらす芸術の意義という普遍的な主題を問いかけます。また、本公演では劇中、藤倉大作曲の「Akiko's Diary」が実際の「明子さんのピアノ」によって演奏され、「明子さん」の日記の一部も朗読されます。 出演は、広島交響楽団コンマス / カルテット・アマービレの北田千尋(vn)、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のエディクソン・ルイス(cb)、小菅優(p)、大山大輔、多和田さち子、西名みずほ、日髙徹郎(朗読)。 借景で知られる京都の圓通寺を訪れたときの強い印象から、『借りた風景』のタイトルを付けたというタウフゴルトは、本作について「数百年にわたり弾き継がれ、戦争や平和の時代を乗り越えてきたヴァイオリンがあります。ヴァイオリニストは寄贈者から楽器を借りているだけでなく、いつか返却するときまで、ある意味で時間を借りているといえます。つまり、楽器は演奏者を単なる現在から、音楽的、政治的、社会的な歴史へと拡げるのです」と語っています。 『借りた風景』テーマビジュアル:日下 明