死刑の是非「公的な会議体の設立を」 研究者らでつくる懇話会が報告書公表 「不毛かつ不幸な状況から脱却へ」
法学者らでつくる「日本の死刑制度について考える懇話会」は11月13日、「国会と内閣の下に死刑制度に関する根本的な検討を任務とする公的な会議体を設置すること」や「具体的な結論を出すまでの間、死刑執行を停止する立法をすることの是非なども検討課題とすべき」などと国に求める提言をまとめた報告書を公表した。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●懇話会は今年2月に発足
懇話会は2024年2月、死刑制度に関して国民的な議論が進んでいない現状を踏まえ、議論の方向性を示すために大学教授や国会議員、新聞記者などによって設立された。 これまで12回にわたって話し合いの場を持ち、元法務大臣の千葉景子弁護士や、元裁判官の木谷明弁護士、犯罪被害者の遺族など、死刑を取り巻く様々な立場の関係者の話を聞き取ってきたという。 そして、それまでの議論内容を踏まえて報告書にまとめ、この日公表した。
●死刑の犯罪抑止力「科学的証明がない」
報告書は、海外の状況、誤判の可能性、被害者の視点、刑罰理論、犯罪抑止力、死刑執行に至る手続きーーという六つの観点から議論をまとめた。 海外の状況を踏まえた議論では、「国連から死刑廃止の勧告を受ける中で死刑執行を続けていることが日本の国益を損ねている疑いがある」と指摘した上で、他国との犯罪者引き渡しに影響を与えていないかなどを検討する必要性を示した。 被害者の視点では、「これまでの日本では死刑制度の存廃が、犯人の側に立つか、被害者の側に立つかの二者択一の問題であるかのように論じられることがあった」と指摘し、こうした状況に対して「不毛かつ不幸な状況から脱却することが求められる」とした。 死刑の犯罪抑止力に間しては「科学的証明がなく、多かれ少なかれ不確かな推測に基づいて論じるほかはない状況となっている」とし、死刑の代わりとして仮釈放の可能性がない終身刑の導入の是非などを検討する必要性に言及した。
●「このまま放置するのは許されない」
懇話会の委員はこの日、日本記者クラブで記者会見を開催。 懇話会の座長を務めた中央大学大学院教授の井田良さんは「これまでの死刑をめぐる議論は存置派と廃止派が対立して実りのある議論がなされてこなかった。懇話会では死刑に否定的な方もいる中でどこまでお互いに理解し合い、学び合えるかを試みた成果がこの報告書。非常に良い議論ができたのではないか。現状のまま放置するのは許されない」と話した。 懇話会の委員で甲南大学教授の笹倉香奈さんは、一旦死刑が確定した袴田巌さんが裁判のやり直しで無罪になったことに触れ、「今は再審法改正についてたくさんの議員が関心を持っている。死刑制度についても議論してもらう素地が今の国会にはあるのではないかと期待している」と述べた。 懇話会は今後、衆議院と参議院の両議長や政府に報告書を渡し、国レベルでの議論を後押ししたい考えだ。 報告は「日本の死刑制度について考える懇話会」のホームページで公表されている。