スマートウオッチなどウエアラブル端末の落とし穴、健康管理のはずが「病む」ことも
ウエアラブル端末がもたらす不安への対処法
このようにウエアラブル技術は精神的な負担をもたらすが、その人気は高まる一方だ。米調査会社ピュー・リサーチ・センターが2019年に実施した調査によれば、米国では成人の約5人に1人(21%)がスマートウオッチやフィットネストラッカーを定期的に使っている。日本国内におけるウエアラブル端末の保有率は2022年3月時点で11.3%だった(株式会社マクロミル調べ)。 幸い、これらの端末が引き起こす不安に対処する方法はある。ハーディス氏は、ウエアラブル端末の使い方を見直すことから始めるよう助言している。 ウエアラブル端末を5キロのランニングに使うのはよいが、心拍数の変動をすべて追跡しなければ気が済まないのは話が別だとハーディス氏は説明する。ウエアラブル端末が不安を高めるようになったら、関係を見直すときが来たということだ。 ミスケビクス氏は、気が散らないように通知設定を調整し、テクノロジーから離れる時間をとるよう勧めている。 「携帯電話を使わない時間を設け、テクノロジーから離れることで、よりマインドフル(今ここで起こっていることに意識を向ける状態)になり、精神的に健康になることは周知の事実です」と氏は話す。 そのうえで、「ウエアラブル端末を身に着けると、テクノロジーから離れられなくなる可能性について考えなければなりません」 ウエアラブル端末を頻繁に確認してしまうのに気付いたら、その習慣を断ち切る行動を意識的にすることが重要だとハーディス氏は述べている。おそらく落ち着かない気持ちにはなるだろうが、データのチェックをやめるよう脳を再訓練しなければ、衝動や不安はより根深いものになっていくと氏は言う。 データをチェックしたいという衝動や、健康上の問題を心配する気持ちに注意を奪われたら、「目に見えるもの、聞こえる音、におい、足元の感触に注意を払う」ことをハーディス氏は勧めている。この練習は、心配から不安に向かう悪循環に陥るのではなく、今この瞬間に集中する脳の訓練になる。 効果的な方法がもう一つある。休息を優先することだ。「良質な睡眠で脳を活性化させましょう」とゴールデル氏は助言する。 ウエアラブル端末に頼って睡眠を追跡する代わりに、ゴールデル氏はシンプルな判断基準を提案している。「目覚まし時計が必要であれば、おそらく睡眠が足りていません」 ゴールデル氏はさらに、「日々のスケジュールに気を配り、文字通りにも比喩的にも、一息つくための時間をとりましょう」と続ける。具体的には、テクノロジーから離れる時間を5分とり、目を閉じて深呼吸するといい。「休息と回復は能動的な行為」であり、生活に不可欠な要素だ。 ウエアラブル技術はいくつものメリットをもたらすが、テクノロジーとマインドフルであることとのバランスを見つければ、心の健康を犠牲にすることなく、ウエアラブル端末の力を引き出せるとミスケビクス氏は述べている。 「データは素晴らしいものであり、必要であり、有益です。しかし、データを重視するあまり、人間らしさを忘れないようにしたいものです」
文=Tiffany Nieslanik/訳=米井香織