ロシア国民がいまだにプーチンを支持する「本当の理由」…「クレイジーな男」が熟知する《大衆の不安》とは?
「大衆の不安」を利用しているプーチン
確かにナワリヌイは志半ばで倒れたことで、人々の心に残り続ける“英雄”となりました。彼が掲げた自由で民主的なロシアという理想は、今後の反プーチン運動の精神的な柱として抵抗者たちを鼓舞し続けるでしょう。 しかし、それでもナワリヌイのような「抵抗者」と国家の「統治者」は全く異なるものだとロシア人は本能的に理解しています。深層心理においては、指導者であるプーチンの交代を恐れている可能性もあります。 もし統治能力のない弱い指導者が登場すれば、国家は崩壊するかもしれず、そうでなくても社会が混乱するのではないか、という恐怖があるからです。 プーチンはそうした大衆の不安を熟知した上でロシアを統治しています。 ロシアでは軍事予算が最優先になっているので、道路の整備など社会インフラは傷んでおり、今後も人々の生活は打撃を受け続けるでしょう。しかし、今のところ多くのロシア国民は、戦争が三年目に入っても、“理不尽”に耐え続けています。 戦死者などの犠牲が圧倒的な数に上ったり、国家総動員などで生活秩序が壊されることがない限り、政治への無関心を装い、プーチンを、消極的であれ、支持し続ける可能性が高いでしょう。 ウクライナ戦争はウクライナの祖国防衛戦争です。しかし、侵略を始めたロシアも同じように、この戦争は西側の侵略に対抗する「祖国防衛戦争」だと主張しています。重要なのはこのロジックが、ある程度ロシア国民に受け入れられていることです。
「プーチン独裁」はこれからも続く?
ウクライナでの軍事行動への支持率は二〇二四年一月時点でも七〇%を超えています。もちろん戦争を批判すれば法律により投獄されるリスクがあるので、大統領支持率と同様に正確さへの疑念はあります。 ただ、専門家の分析や、歴史的に何度も侵略を受け続けたロシア国民のトラウマを考えると、少なくとも過半数の国民は支持していると推測されます。 特に第二次大戦の独ソ戦を戦ったかつての敵ドイツが二〇二三年一月にウクライナにレオポルト2戦車を提供すると発表したことは、プーチン政権のプロパガンダには追い風でした。 独ソ戦はソ連のT-34戦車がナチス・ドイツのティーガー戦車と戦ったロシアにとっての“聖戦”です。プーチン政権はドイツ戦車レオポルト2の提供に対して、「宿敵ドイツの戦車が再び攻めてくるならば、自分たちも祖先たちのように勇敢に戦わなければならない」というメッセージを拡散しました。 ロシア国内では二〇一八年に政府が全面支援した映画「T-34 レジェンド・オブ・ウォー」というプロパガンダ映画が公開され大ヒットしています。 ロシアが歴史を利用してくることは予想できたからこそ、ドイツは当初から戦車の提供に消極的でした。第二次大戦では自らが侵略者だったことへの贖罪意識も強く、戦車の提供についてドイツの世論も真っ二つに割れていました。
豊島 晋作(テレビ東京WBSメインキャスター)