スマホが学力を「破壊」する、成績不振の新事実 中高生4人に1人が「ネット依存」の恐ろしさ
スマホの使用で脳の発達が阻害される
東北大学加齢医学研究所では、約5~18歳の子どもたち223名の脳をMRIで計測し、3年間の脳の発達とインターネット使用習慣との関係を調べました。 アンケート調査により子どもたちのインターネット使用習慣を尋ね、同時に言語能力に関する知能検査を行いました。そして、脳の発達を調べるために、MRIを用いて子どもたちの脳の容積を計測しました。3年後に同じ計測を行った結果、インターネットを頻繁に使っていた子どもたちほど、3年間の言語能力の発達が小さく、幅広い範囲における脳の発達にも悪影響が見られました。 下の画像の黒い部分が、発達に悪影響が見られた脳の領域を表しています。前頭前野をはじめ、記憶や学習に関わる海馬、言葉や感情に関係する領域などが含まれています。どれも私たちが生きるうえで必要となる大切な機能です。特に衝撃を受けたのは、インターネットを「ほぼ毎日使用する」と回答した子どもたちの脳の発達は、ほとんどゼロに近い数値となっていたことです。 つまり、インターネットを毎日使っている子どもたちは、3年間で脳がまったく発達していなかったのです。脳の広範囲で発達が止まってしまっているわけですから、スマホを使った分だけたくさん勉強をすれば悪影響を補って帳消しにできる、とはいかないのです。
自己管理能力を育て、スマホ依存に立ち向かう
スマホが子どもたちの脳や学力へ与える悪影響を防ぐためには、どのような取り組みが考えられるでしょうか。私たちは、子どもの自己管理能力を育てるスマホ依存改善プログラムとして、公立小学校の児童349名を対象に、約6カ月間の取り組みを実施しました。 まずは夏休み明けの全校集会で、スマホとゲームが学力や脳の発達へ与える影響について児童に説明しました。その後、スマホとゲームとの付き合い方について各学級で話し合ってもらいました。次に、各学級の代表者2名を集めた会議を開き、学級会で得られた意見をもとに学校全体のルールを定めてもらいました。児童の話し合いの結果、スマホとゲームは「1日2時間以内」「寝る1時間前までにやめる」「宿題などやるべきことが終わってから使う」という3つのルールが定められました。 年度末にかけて、自分たちで決めたルールをみんなで守って生活してもらい、自己管理能力の育ちを見守りました。取り組みを進めるうえで重要なのは、子どもたちの主体性を尊重することです。親や教師から無理矢理押し付けられたルールではやらされ感が大きく、子どもたちが自分事として捉えられません。教師はできる限り口を挟まず、添え木のような役割に徹することが求められます。 分析の結果、取り組み前後でルールを守れる児童の割合が約10~20ポイント増加していました。 また、インターネット依存傾向の児童の割合も減少していました。児童の感想では、自己管理能力の育ちや、学習面への良い影響を実感している意見が聞かれました。また、同じ立場の人と互いに支え合うピアサポートの要素が取り組みの成果に繋がっていることもうかがえました。 このように、スマホに依存することなく、便利な道具として活用するためには、前頭前野を鍛え、自己管理能力を育てることが大切です。急速に進歩を遂げる科学技術に対して、人間の「心」も共に進歩しなくてはならないのです。 (注記のない写真:YsPhoto/PIXTA) 【引用文献】 榊浩平(著)川島隆太(監修)『スマホはどこまで脳を壊すか』(朝日新聞出版)
執筆:東北大学応用認知神経科学センター助教 榊 浩平・東洋経済education × ICT編集部