「肉の味を覚えてしまったヒグマ」の脅威 牛66頭を襲ったOSO18は「人間が生み出した」 対策班リーダーが警告、背景にエゾシカ問題
「人の気配に極めて敏感なクマだ」。藤本さんはそう感じた。 9月には、ヒグマの好物であるデントコーンの畑にわなを仕掛けた。しかしその30センチ横を通過し、わなは作動せず。駆除できないまま冬を迎えた。その隠密な行動ぶりから、いつしか「忍者グマ」と呼ぶ人も現れた。メディアの報道も過熱。「“闇夜にまぎれて行動する恐ろしい超巨大ヒグマ”を早く食い止めなければ」。地域の人々は焦りを募らせた。 ▽捕獲難航の理由は「思い込み」 今年7月30日早朝、被害が発生していた地域から10キロ以上南の釧路町で、ハンターが1頭の痩せたクマを駆除した。このクマは2日前、オタクパウシ地区の放牧地に出没していた。人を見ても逃げないため、問題がある個体と判断されていた。死骸は食肉加工され、東京都内のジビエ料理店などに出荷された。 釧路町の担当者は8月に入り、このクマが実はオソだったのではないかとの疑問が浮かんだ。町が残していたこのクマの毛をDNA型鑑定すると、オソだったと特定された。
「あっさり駆除されてしまった」 あまりにあっけない幕切れ。4年にわたりオソを追い続けた標茶町の職員はそのことに驚き、振興局の担当者は「その思いつきがなければオソは行方不明のままだった」と胸をなで下ろした。 釧路町に残っていた記録によると、オソは体長2メートル10センチ、体重は330キロ。大きめではあるが、決して「超巨大ヒグマ」とは言えない体格だった。推定年齢は約9歳6カ月の雄で、手足に皮膚病があり、痩せていた。 「みんなが『牛を食べるくらいだから、オソは大きい』と強く思い込んでいた。だから寄せられる目撃情報も少なかった」。対策班リーダーの藤本さんは、これが捕獲が難航した理由の一つだと考えている。 ただ、ヒントはあった。襲った牛のほとんどは体重120~180キロほどと、小柄なものばかりだった。 藤本さんはこう推測している。「むしろ狙った牛を殺しきれないからこそ、複数頭に手を出したのではないか」