「肉の味を覚えてしまったヒグマ」の脅威 牛66頭を襲ったOSO18は「人間が生み出した」 対策班リーダーが警告、背景にエゾシカ問題
地元には思わぬ余波が広がっていた。オソが駆除されたと報道されると、釧路町役場には「かわいそう」といった苦情が約30件相次いだ。そのほとんどは道外からだった。野生動物の駆除に関する苦情は多く、7月に札幌市で子を連れた親グマが駆除された際も、市に約650件の苦情が寄せられた。 釧路町の担当者はこうした声が広がることを危ぶんでいる。「ハンターを誹謗中傷するような内容が出てくると、萎縮し担い手が少なくなってしまうかもしれない」 北海道庁がホームページや交流サイト(SNS)で「捕獲は地域の安全に欠かせない」と理解を求める呼びかけを行うなど、異例の事態となった。9月下旬のX(旧ツイッター)への投稿は10月までに2千万回以上閲覧され、7万を超える「いいね」が付いた。 ▽オソ出現の背景に「エゾシカの急増」 藤本さんら対策班は、オソのようなクマが出現した一因にエゾシカの急増があるとみている。
エゾシカの推定生息数は増加傾向で、2018年度の65万頭から、2022年度は72万頭に増えた。農作物を食い荒らすほか、自動車や列車との衝突事故が相次いでいる。 北海道は駆除を推進しているが、同時に「残滓(ざんし)」と呼ばれる駆除後の死骸や解体後の内臓の不法投棄が問題化している。例えばオソの被害が出た厚岸町では2022年5月、国有林に100頭超分の残滓が投棄されているのが発見された。北海道猟友会の関係者によると、安価に死骸を持ち込める処理場が少ないことなどもあり、公になっていないだけで、同じことはほかにも複数発生しているという。 藤本さんは、オソが肉の味を覚えたきっかけがエゾシカの死骸だった可能性があると指摘する。ヒグマは雑食で、主に草木の根や木の実などを食べる。しかし、オソが移動したと思われる経路上に、フキなどの草木を食べた跡はまったくなかった。肉食に執着していたとみられる。「シカが草木を食べ尽くしてしまうので、ヒグマは他の餌を探す。そのうちにシカの死骸を見つけ、肉の味を覚えたのかもしれない。肉というごちそうを一度食べてしまうと、クマは忘れられない。その延長線として、シカよりも緩慢な牛を狙うようになったんだろう」
そうだとすれば、「生み出したのは私たち人間の可能性がある」。藤本さんは自戒を込めてそう語った。 エゾシカの駆除態勢や処理方法を早急に整備し、適切な個体数調整をしないと「第2、第3のオソはすぐ現れる。オソは突然変異ではない。周囲にもっと大きなクマがたくさんいる。それらが同じように肉の味を覚えたら、人を狙って襲いかかる個体が出てきても不思議ではない」。