「肉の味を覚えてしまったヒグマ」の脅威 牛66頭を襲ったOSO18は「人間が生み出した」 対策班リーダーが警告、背景にエゾシカ問題
北海道東部で2019年夏以降、放牧中の牛66頭が相次いで襲われた。“犯人”は「OSO18(オソじゅうはち)」の通称で呼ばれたヒグマ。ヒグマの主なエサは草木の根や木の実だが、オソは肉の味を覚えてしまったようだ。次なる被害を防ごうと、北海道庁や地元の役場などが「特別対策班」を結成し、捕獲を目指した。だが「忍者」と呼ぶ人も出るほど警戒心が強く、作戦は失敗を重ねた。 クマ駆除に「殺すな」と抗議
ところが今年8月、事態は急変する。被害の出ていなかった町で7月に駆除された個体が、実はオソだったことが判明したのだ。危機は回避され、酪農関係者は安堵。しかし、専門家はこう警鐘を鳴らす。「オソは人間が生み出した。第2、第3のオソが出てきても不思議ではない。根本的な対策をしないと意味がない」。どういうことか。(共同通信=阿部倫人、川村隆真) ▽「まさか自分の牛が襲われるとは」 始まりは2019年7月。標茶町の下オソツベツという地区で牛の死骸が見つかった。ひっかき傷やかみ傷があり、ヒグマに襲われたと推定された。その年のうちに標茶町内で28頭が襲われ、2021年には隣の厚岸町でも被害が出始めた。時期は6~9月の夏場に集中。現場に残された体毛などをDNA型鑑定すると、雄の同一個体が襲撃している可能性が高いと分かった。 北海道庁の出先機関・釧路総合振興局によると、足跡などから推定されるものも含めて今年6月までに両町で少なくとも66頭が襲われ、32頭が死んだとされる。被害の総額は2千万円を超えた。
標茶町の酪農家高野政広さん(66)は被害を受けた1人だ。「話には聞いていたが、まさか自分の牛が襲われるとは」。2021年7月1日の朝、牧場に行くと1頭の牛が血まみれになって倒れていた。発見時はまだ生きており、直前に襲われたようだった。「牧場の被害も痛いが、いつ孫が襲われるかと思うと気が気ではなかった」と振り返る。 振興局や標茶・厚岸両町などは下オソツベツの地名と、発見された幅約18センチの足跡からOSO18と命名し、初の対策会議を2021年11月に開催。翌22年2月、NPO法人南知床・ヒグマ情報センターの藤本靖さん(62)をリーダーに「OSO18特別対策班」を組織し、捕獲を目指すこととした。 特別対策班を結成後の最初の被害は、22年7月の標茶町。1日に3頭、11日に1頭、18日にも1頭が襲われた。 ヒグマは獲物を襲った現場に戻る習性がある。このため藤本さんらは18日に被害が出た牧場で、牛の死骸をあえて回収せずに張り込みを始めた。しかしオソが姿を現さない。1週間が過ぎ、張り込みを解除。そのとたん、残していた牛の死骸が消えた。