なぜ東洋太平洋&日本ミドル級2冠を達成した竹迫司登はニコリとも笑わなかったのか?
この試合は、4年間、タッグを組んでいた藤原俊志トレーナーがジムを去ることになったため、齋田会長との新コンビで迎えた。 「初めての体制。どこかに不安があった」という。 この日の朝、同じく試合を行う後輩の高橋拓磨に電話をした。こんなことは初めてだった。 「大丈夫か? なんかいつもと違う感じがするんだろう。俺もそう。だけど力まずに頑張ろうな」 自分に言い聞かせるようにそんな話をした。 取り巻く環境の変化も竹迫に微妙な影響を与えたのかもしれなかった。 「ジャブをついてポイントをとり、相手が来るところにアッパーをかちあげて、ボディを打つ。そして、ボディだけで終わらずにアッパーとか上につなげるパンチを打つ練習もやってきた。なのに思うように出なかった。イライラしそうになったし、思うようなパンチが当てられなかった。KO勝利を狙うのは常。でも、どこかでKOを狙いにいくことを捨てていた。メリハリをつけないと12ラウンドは持たないし、狙いにいくとパンチが大振りになる。お客さんは面白いかもしれないが、今後、海外での戦いを目指していくなら、そこじゃない」 反省と納得が入り乱れた。竹迫は2本のベルトを肩にかけた喜びに浸ることはなかった。そしてチャーリーの「パンチがなかった」のコメントを伝え聞くと「悔しい」とうなった。 それでも齋田会長は、「もう少し王者は失速するかと思ったが、パンチが効くと抱きついてきた。バックステップ、アッパーなどを打ちたかったが、突進してきたので仕方ない。今ある力は出し切れた。11、12ラウンドを経験できて今後に生きるキャリアになった。まだまだ成長過程にある」と評価した。 早ければ4月下旬にも、この日、視察にきていた指名挑戦者の若手のホープ、国本と日本タイトルの防衛戦を行い、年内には、世界ランキングを上げるため42歳の大ベテラン、野中が持つWBOアジアパシフィックのベルトへの挑戦を実現させる方針を明らかにした。 竹迫も、「自分の思うボクシングができるようにしていきたい。まだまだと思うシーンがいっぱいある。目標は世界。実力もまだまだだし、厳しい階級だが、僕は無理だと思っていない。少しずつ前へ進んでいく」と言う。 目標は世界と口にした竹迫にちょっと意地悪な質問をした。 ――もしWBA世界ミドル級王者の村田諒太が、今日と同じような展開で戦ったら倒せないまま12ラウンドのゴングを聞いただろうか? 「きっとないでしょうね。倒していたでしょう」 負ければ終わりーーの過酷なボクシングの世界において勝ちながら反省点を見つけることの意義は大きい。さらなる高みへ。まずはKOキングの称号を取り戻さねばならない。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)