日本人のほとんどが知らない、日本文化の深層にある「結ぶ」と「立つ」の「驚きの意味」
「わび・さび」「数寄」「歌舞伎」「まねび」そして「漫画・アニメ」。日本が誇る文化について、日本人はどれほど深く理解しているでしょうか? 【写真】日本人のほとんどが知らない、日本文化の深層にある「結ぶ」と「立つ」の意味 昨年逝去した「知の巨人」松岡正剛が、最期に日本人にどうしても伝えたかった「日本文化の核心」とは。 2025年を迎えたいま、日本人必読の「日本文化論」をお届けします。 ※本記事は松岡正剛『日本文化の核心』(講談社現代新書、2020年)から抜粋・編集したものです。
「立てる」文化のルーツ
なぜこんなふうに柱が大事にされたのでしょうか。柱は立てるものですが、日本人はこの「柱を立てる」ということを大事にしてきたのです。 村をおこすときも、その中心あたりに先駆者たちが最初に1本の柱を立てました。村の中の一本の立派な木を柱に見立てることもある。これを「村立て」と言います。 国は村から成立します。「村立て」があるなら「国立て」もある。 この言い方が延長されて幕末や明治社会では「身を立てる」(立身)、「国を立てる」(立国)、「志を立てる」(立志)という見方が出てきました。立身・立国・立志です。いずれも立ててナンボです。 柱を重んじてきたルーツはかなり古いものです。さかのぼれば『古事記』や『日本書紀』に示された日本神話の神々の名前に象徴されている。 日本神話のことは本書ではまとめて扱いませんが、ときどき話の都合で紹介するつもりです。ここでは、日本神話の最初の最初にどんな神が登場するのか、そこを説明しておきます。 『古事記』の冒頭に、こんなことが書かれています。 「天地初めて発けし時、高天原に成れませる神の名は、天之御中主神、次に高御産巣日神、次に神産巣日神。この三柱の神はみな独神と成りまして、身を隠し給ひき」。 日本の天地開闢のときに、この三神が最初に現れて隠れたというのです。アメノミナカヌシ、タカミムスビ、カミムスビの三神がぬっと現れたというのです。これを「造化三神」あるいは「高木三神」と言います。 いわゆる八百万の神々が出現するのに先立って出現した三神です(『日本書紀』ではこのメンバーが少し異なって記されているのですが、いまはそのことは問いません)。 まず天空の真ん中にアメノミナカヌシが姿をあらわし、そこをよりどころとしてタカミムスビがさまざまな「結び」を試み、その「結び」にもとづいてカミムスビがその後の神々たちを国土に結ばれるようにしたというのです。タカミムスビは別名を高木神ともいいます。 造化三神につづいて、宇摩志阿斯訶備比古遅神と天之常立神が出現します。造化三神はまだ国土をつくっていません。そこでウマシアシカビが水面に漂う微妙なアシカビ(葦の芽)のような素材を用いて国土の基礎をつくる準備をした。こうして、これらの準備の上に登場したのが国之常立神だというのです。 神名にいろいろ「結び」とか「立つ」という言葉がつかわれていますが、そのことはこのあとすぐに説明するとして、日本神話は以上の造化三神プラス二神を先陣として、ついでクニノトコタチが「国立て」をしたというふうになっています。 『日本書紀』ではクニノトコタチをクローズアップしていて、天地開闢の直後にクニノトコタチが出現して「国立て」をしたという筋書きになります。