日本人のほとんどが知らない、日本文化の深層にある「結ぶ」と「立つ」の「驚きの意味」
「結び」と「産霊」
これでわかるように、日本のはじまりは五神の準備のうえにクニノトコタチという「国を立てた神」が続いたのです。 このあと、神世七代の神々が生まれ、その最後にイザナギとイザナミの男女二神(夫婦神)が登場して、高天原からオノコロ島に天下って、そこで天御柱を御殿に見立てて「まぐわい」(交わること)というふうに進みます。 たいへん象徴的な神話のはじまりですが、この日本の天地開闢のいきさつを集約すれば、この話は日本という国が成立した事情を、すべて「結び」と「立つ」で説明しているということがわかります。 日本神話の冒頭でどうして「結び」が重視されているのでしょうか。そもそも「結び」とは何なのか。 古代日本ではムスビは「産霊」という字をあてます。ムス(産)・ヒ(霊)でムスビです。ムス(産)は「つくる・うむ・そだてる」の意味で、いまでも「苔のむすまで」とか「ごはんを蒸す」などと使う。 ヒ(霊)はスピリットや霊力のことです。ということは、ムスビとは「新たな力を生むものをつくる」という意味、あるいは「新たな力を生むものを示す」という意味です。そのプロセスに「結び」や「結ぶ」があるのです。 ムスビは、数ある日本コンセプトのなかでもとくに重要な「始原からの結実」をあらわしています。したがって、日本の多くの象徴的で記念的なプロセスには、たいていさまざまな「結び」が使われます。 一番わかりやすいのは注連縄や水引です。髪の髷の結び方、紐や帯の結び方、幣の結び方などにも思いがこめられました。ムスコやムスメという言葉にも「結び」がひそんでいます。 古代日本では男児のことをヒコ(彦)と、女児のことをヒメ(姫・媛)と呼ぶことが多いのですが、ムスコは「ムス・ヒコ」のこと、ムスメは「ムス・ヒメ」なのです。 そのほか、相撲では「結びの一番」や「横綱」といったムスビが、婚儀では「結納」や「結婚」というムスビの言葉がつかわれています。握り飯のことを「おむすび」とも言いますが、旅の途中で「おむすび」を食べることは、移動中のエネルギーの充実には欠かせなかったのです。日本は「ムスビの国」でもありました。 さらに連載記事<「知の巨人」松岡正剛が最期に日本人に伝えたかった「日本文化の核心」>では、日本文化の知られざる魅力に迫っていきます。ぜひご覧ください。
松岡 正剛