「鹿島戦も苦ではなかった」東京ヴェルディ、山田楓喜はさらにタフな男に。過酷なアジアカップで学んだこととは?【コラム】
明治安田J1リーグ第13節、鹿島アントラーズ対東京ヴェルディが12日に行われ、3-3のドローに終わっている。この試合で先発したサッカーU-23日本代表のMF山田楓喜は前半、相手の厳しい対策を前になかなかボールを持てず。チームもHTまでに3失点するなど苦しんだ。それでも本人は「収穫でしたね」とポジティブに振り返る。その理由とは。(取材・文:元川悦子) 【動画】鹿島アントラーズ対東京ヴェルディ ハイライト
●「『山田楓喜単体』を見ていただきたい」 2008年以来のJ1復帰を果たした今季、なかなか勝ち切れない戦いが続いていた東京ヴェルディ(東京V)。だが、5月に入ってからはサガン鳥栖、ジュビロ磐田に連勝。城福浩監督が植え付けている粘り強くタフに戦うスタイルが定着しつつある印象だ。 こうした中、12日に迎えたのが敵地・鹿島アントラーズ戦。両者はJリーグが発足した93年のチャンピオンシップで顔を合わせており、まさにリーグ創世記をけん引した存在だ。16年ぶりの黄金カード復活に合わせ、試合前には当時の両10番であるラモス瑠偉とジーコ両氏によるトークショーも行われたほど。彼らが躍動していた頃を現在のメンバーは知る由もないが、東京Vのアカデミー出身者であるキャプテン・森田晃樹らは新たな歴史を作ろうと燃えていたに違いない。 4~5月にかけて行われたAFC U-23アジアカップカタール2024に参戦していた山田楓喜にとっては、この試合がJ復帰戦となった。左利きのスペシャリストは大会のターニングポイントとなった4月25日の準々決勝・カタール戦で先制弾を挙げ、勝利に貢献。さらに5月3日のファイナル・ウズベキスタン戦で決勝点を叩き出し、パリ五輪出場権獲得の原動力となった。それだけに注目度が一気にアップしたと言っていいだろう。 「『中村俊輔(横浜FCコーチ)2世』みたいな言われ方をしますけど、やっぱり自分は誰かの後釜じゃなくて、『山田楓喜単体』を見ていただきたいというのはあります。俊輔さんのような素晴らしい左足の持ち主と比べられるのは嬉しいけど、僕は全く別の選手だし、全く違う特徴を持っているので」と本人も4日深夜の帰国時の取材で語気を強めていたが、今回の鹿島戦から新たな一歩を踏み出したいところだった。 ●苦しい前半も…。「収穫でしたね」と語った理由 山田が陣取ったのは、いつも通り、4-4-2の右MF。定位置でチャンスメークやフィニッシュに絡む動きを期待された。ただ、対面にいる安西幸輝は日本代表や海外経験のある左サイドバック(SB)。「山田選手はFKからの一発があるのでファウルを与えないことをチーム全体で共有しておく必要がある」と試合前にも語った通り、これまで以上に警戒を強化してきた。 相手の対策が厳しくなることを山田自身も想定していたというが、前半はなかなかボールを持てずに苦しんだ。開始早々に木村勇大のPK献上から鈴木優磨に決められて1点を失い、その3分後にも名古新太郎に2点目を奪われるという劣勢を強いられたこともあり、山田自身がゴール前で輝くシーンは皆無に近かったと言っていいだろう。 「(4月7日の)湘南ベルマーレ戦の時も相手の守備が(自分のいる)右側に偏っていて、僕自身もちょっとうまくいかなかったんですけど、それと似たような感じになった。攻撃面ではかなり苦しい状況で、『どう打開しようか』を考えながらもイメージ通りにはいかなかったんですけど、そういう時こそ、守備面とかで違いを出さないといけない。『走る・戦う・チームのために守備をする』っていうのが大前提にあるんで、最低限のことはやろうと思ったし、実際にできたのかなと。そこは収穫でしたね」と本人は苦境の45分間を前向きに振り返っていた。 相手に主導権を握られ、自身が攻撃に絡めなくなる展開というのは、AFC・U-23アジアカップでも見られたこと。今夏の五輪になれば、なおさらそうだろう。そこで何の仕事もできない選手は狭き門の代表枠には滑り込めない。山田は厳しい現実を痛感しつつ、オフ・ザ・ボールの時に何をすべきかを考え、ピッチ上に実践できるようになりつつある。そこが慣れ親しんだ京都サンガF.C.を離れ、東京Vの門を叩き、あえて自らを過酷な環境に追い込んだ成果かもしれない。 ●「鹿島戦も苦ではなかった」 「アジアカップに行って、うまくいかない状況でもやることは沢山あると学んだ。実際、準決勝のイラク戦でも相手が右を警戒してきて難しかったんですけど、それを経験していたんで、今回の鹿島戦も苦ではなかった。チームとしてもローテーションしながら攻撃面のバリエーションを増やしていかないといけない。前半はそう考えながら戦っていましたね」と山田は何とか打開策を見出そうともがきつづけたという。 迎えた後半。またも開始早々に右CKから植田直通に打点の高いヘッドを決められた東京Vは3点のビハインドを背負うことになった。そうなれば、普通のチームなら諦めムードになってしまっても不思議はない。 けれども、今季の東京Vはここから凄まじい粘りを発揮できる集団だ。山田自身は60分に交代を強いられたが、彼と代わって登場したチアゴ・アウベスが左サイドに陣取り、積極果敢にドリブル突破を見せるようになってから流れが一変した。 69分に齋藤功佑がまず1点を返すと、そこから怒涛の攻めを披露。81分に木村がPK献上を取り返す2点目をゲットし、後半ロスタイムにはリスタートから見木友哉が値千金の同点ゴールを奪うことに成功した。終わってみれば3-3のドロー。ベンチから味方の反撃を見守っていた山田も心から安堵したという。 「負けで終わるより、引き分けで終われたことはすごく大きいと思います」と本人も嬉しそうに話したが、東京Vにしてみれば10戦無敗という結果は前向きに捉えていいはず。これで勝ち点を17に伸ばし、13試合終了時点で11位。16年ぶりのJ1でこの結果というのはまさに大健闘に他ならない。 「この勝ち点1っていうのをムダにしてはいけない。次の試合(ガンバ大阪戦)は中2日で、厳しい日程ではありますけど、カタールでそれを経験してきてるんで、全然大丈夫です」と山田は先を見据えていたが、ここからもう一歩前進して、東京Vを勝ち切れる集団へけん引することが若きレフティに課されたタスクと言っていい。 ここまで8引き分けという結果に象徴される通り、今季の東京Vは泥臭く戦えるチームではあるものの、勝ち点3を逃しているケースも少なくない。山田がゴールやアシストでチームに決め手をもたらせれば、もっともっとポイントを稼げるようになっていくはず。彼自身の価値を引き上げる意味でも、ここからが本当の勝負。パリ五輪滑り込み、A代表へのステップアップを目指す22歳のレフティモンスターのさらなるブレイクが待たれるところだ。 (取材・文:元川悦子)
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