こんな抽象的な言葉の羅列で本当に「納得と共感」が得られると思っているのだろうか。 　石破茂首相が国会で初の所信表明演説を行った。 　冒頭に取り上げた自民党派閥裏金事件では、国民の政治不信を招いたことを反省し、「信頼を取り戻す」と決意を繰り返した。その上で、ルールを守る倫理観の確立や透明性を高めることを訴えた。 　しかし、どんな改革をするのかには一切触れなかった。 　それどころか自民は、裏金議員を衆院選で原則公認し、比例代表との重複も容認する方向で調整しているというから驚くばかりだ。 　共同通信の世論調査では石破内閣の支持率は50・7％で、20％台と低迷していた岸田文雄内閣と比べ倍以上も回復したのは、改革への期待感からだろう。裏金議員の公認を「理解できない」とする回答が7割超に上った。 　石破氏は総裁選に立候補する際、裏金議員の非公認の可能性に言及していた。国民の声を正面から受け止めるべきだ。 　所信表明演説は1万字近くあり、2012年の自民政権復帰以降で最多という。だが、全体を通しても具体性を欠き、「納得と共感をいただきながら安全安心で豊かな日本を再構築する」との言葉が空疎に響く。 　ほぼ唯一、石破カラーがにじんだのが「地方創生」の再起動だろう。交付金を当初予算ベースで倍増を目指すという。 　安倍晋三政権が統一地方選対策として打ち出して10年。石破氏は初代の地方創生担当大臣としての思い入れもあるようだが、人口減少も東京一極集中の流れも止められず、地方を疲弊させた面は否めない。予算増ありきでなく、行き詰まった反省と新たな中身の方向性こそ示すべきだったろう。 　ほかの主要政策では岸田氏の路線をほぼ踏襲した。 　物価上昇を上回る賃上げの実現や低所得者世帯への支援などの経済対策を述べたが、岸田氏が進めた減税や物価高対策を口実にした大盤振る舞い、先送りした防衛費「倍増」への増税や少子化対策の負担増はどうするのか。語らなかったことにこそ、石破氏が手がけるべき課題があるはずだ。 　安全保障には時間を費やしたが、総裁選で掲げた日米地位協定の改定などは封印した。 　こうした疑問をただす国会質疑は各党の代表質問と、短時間の党首討論にとどめ、来週半ばの9日で衆院を解散する。 　やはり石破氏自らが総裁選で主張していた通り、予算委員会を開き、山積する問題に新政権の態度を示してからでないと、解散の大義が見えない。 　そこをあいまいにしたまま、支持率回復の勢いで選挙をやり過ごす狙いなら、有権者を見くびるにも程がある。