30周年『古畑任三郎』マニアほど驚いた“お約束破り”事件3選
最後にして最大のお約束破り!
そして最後に紹介したいのは、2006年の正月に3夜連続で放送された『古畑任三郎』ファイナルの1作目「今、甦る死」だ。藤原竜也と石坂浩二という新旧のスター俳優を迎えた本作では、「ファイナル」の名にふさわしい“お約束破り”が展開される。 15年前に当主・幾三が謎の失踪を遂げた鬼切村の名家・堀部家。現当主の幾三の義弟・伍平が熊に襲われ死亡し、幾三の長男・大吉(千葉哲也)が跡を継ぐことに。ところが、裏山の売却を巡り弟・音弥(藤原)と衝突。そんなある日、音弥は恩師の郷土資料館館長・天馬恭介(石坂)に資料の整理を依頼され、小学生の頃に自分が書いた自由研究ノートを発見する。そのテーマは「完全犯罪」。音弥はノートに書かれたトリックを実行し、大吉を殺害する。堀部家の跡を継いだ音弥だったが、古畑に徐々に追い詰められていき、最後は猟銃の暴発によって彼自身も命を落とす。 「犯人の死」も、実は『古畑』では稀なケースだが、それ以上に本作最大の“お約束破り”は、音弥の裏に“真犯人”が存在したということ。実は音弥を大吉殺害に向かわせたのは、裏山を売却されると15年前のある犯罪がバレてしまうと恐れた天馬だった。教え子の音弥の性格を知り尽くしていた天馬は、音弥本人も気づかないうちに彼を巧みに誘導して殺人を実行させ、さらにその音弥も暴発という“事故”によってこの世から葬り去る「完全犯罪」を成し遂げたのだった。 もちろん、それまでのシリーズでも「真犯人」として語られるゲストは存在した。しかし前述したとおり、『古畑』は「倒叙」の形式のため、あくまでもそれは作中人物にとっての「真犯人」に過ぎなかった。しかし「今、甦る死」に登場する天馬は、視聴者にとって初登場した「真犯人」だった。40話目にして、「倒叙もの」というお約束を破る、多くのファンの度肝を抜いた最後にして最大のお約束破りだった。(文:前田祐介)